第2話 自称異世界の勇者パーティー

 いや、もう何が何だか分からん。

 分からんけど、取り敢えず一旦落ち着こうか。

 まあ、落ち着いたからってどうにかなる訳でもないんだけど。


 突然現れた変な格好してる奴らにポカンとしてる私には一向に目もくれず、そいつらは物珍しそうにキョロキョロと部屋の中を見回している。


 見た目から多分そうだと思うけど、少年が三人に少女が一人、それから老人男性が一人。

 顔立ちからして全員どう見ても日本人じゃない。


 その中でも一番背の低い如何にも悪ガキみたいな顔した少年が私に気付き、思いっきり顔を顰めて睨んできやがった。


「誰だ、お前?」


 それはこっちの台詞だ。

 お前らこそ誰だっつうの。

 しかもやけに流暢な日本語に聞こえた気がするんだが気のせいか?


「あんた達こそ誰よ? ここは私の家なんだけど、どこから入ってきたわけ?」


 正確には借りてるアパートだけどな。

 それはこの際どうでもいいだろう。


「ああん? お前何偉そうに…、グゲッ!?」

「偉そうなのはお前だろうが」


 不機嫌そうに悪態をつくチビの頭に、その隣にいた一番背の高い少年が容赦なく拳骨を落とした。


 おお、結構凄い音がしたぞ。

 あれ、メチャクチャ痛いだろうな。


 チビの奴、潰れたカエルみたいな声出してたし、殴られたとこ両手で押さえて蹲ってるし。


「こいつが失礼なこと言ってすみません。どう考えても俺らの方が不法侵入で怪しいですよね」


 確かにな。

 だけど、見た目はチャラいが、チビに比べたら随分とまともな反応だ。


 取り敢えず、この状況を説明してくれると有り難いんだが。


「ええと、俺らはこことは違う世界から来た勇者パーティーなんですけど」

「……はい?」


 いや、こいつも充分おかしなこと言い始めたぞ。


 どこから現れたのかも気になるが、勇者パーティーとやらが何でこんなとこにいるんだよ?

 こことは違うってことは異世界ってことだよな?


 その前に、それをそのまま信じるほどおめでたくはないぞ?


「ああ…、やっぱり信じられないですよね。俺らも本当にこんなのありかって思うんですけど」

「何を言っておる。実際こうやって違う世界に来とるではないか」


 見た目チャラ男が苦笑いしていると、そこに老人男性が会話に割り込んできた。

 何か偉そうにしてるし、しかも何でドヤ顔なんかしてるんだよ?


「そりゃ確かにそうですけど、そちらの女性にしてみたら、そんなの信じろって方が無理があるでしょ?」


 それはそうだろ。

 そりゃ確かに突然目の前に現れたし格好もそれっぽいけど、だからってね、はいそうですかってあっさりそんな訳分からん現実受け入れてたまるかっての。


「何が無理なのだ。どこからどう見てもお主達が勇者パーティーであることは一目瞭然ではないか」


 この爺さん、一体何を根拠に一目瞭然なんて言ってるんだ?

 こちとら生身の人間で勇者パーティーを名乗る奴らなんて見たのは初めてなんだが。


「でも、納得はされていないみたいですよ?」


 当然だ、これでどうやって納得しろと?


 確かに漫画やアニメ、ゲームに出てくる勇者や冒険者と似たような格好をしているとは思うが、実際にそんな格好してる奴らがいたらコスプレとしか思わないからな。


「なぬ? 何故納得出来ぬと言うのだ? この娘は馬鹿なのか?」

「バカはお前だクソジジイ。勇者なんざ現実にいる訳ないだろボケ!」


 流石にブチ切れるわこれは。


 人の部屋に不法侵入するわ、デカい態度で訳分からん頓珍漢なこと言うわ、それで挙句に人をバカ呼ばわりとかいい加減にしやがれ!


「何を言っておる! ここにいるではないか!」


 そう言いながらクソジジイが指差したのは、未だに蹲って呻いているチビ。


 はあ? そのチビが勇者? 何言ってんの?


「あの、師匠? こちらの世界には勇者も魔王も存在しないって言ってませんでしたっけ?」

「ふおっ?」


 クソジジイと睨み合いをしていると、それまで黙って事の成り行きを傍観していたもう一人の少年が、クソジジイに呆れ果てた目を向け聞き捨てならんことを言った。

 そんでもってクソジジイ、それに対するお前の反応はどういうことだ?


「そう言えばそうだったの。ふおっほっほ!」


 ふおっほっほじゃねえわ!


 それってこのクソジジイは、この世界に勇者もいなけりゃ勇者パーティーも存在しないって知ってた訳だよな?

 つまり私は、それを忘れたクソジジイに理不尽にバカにされたってことか?


 それ以前に、こいつらが異世界から来た云々も、そんな簡単には信じられませんけど?


 いかん、どんどん考えが錯乱してきた。

 とにかく一度落ち着こう。

 いや、冷静になったところでどうにかなる訳でもないことは分かっている。


 しかし、このカオスな状況は何なんだ?

 よく考えたらこの怪しい奴らに対する私の態度もどうなんだ?

 緊張感なさすぎにもほどがないか?


 駄目だ、また思考が訳分からん方向へ行きかけた。

 まずは今のこの状況をちゃんと把握しないと、いつまでも訳が分からんままだ。


 うん、だから取り敢えず、何がどうなってこうなったのか、誰かきちんと正確に説明してくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る