勇者パーティーはゲームアプリで修行中
水沢樹理
第1話 怪しげなアプリ
うるさい、うざい、鬱陶しい。
そいつは、当たり前のように私の部屋に乱入してその一角を占拠し、当たり前のように私の買ったばかりのタブレット端末を独占している。
因みにそいつは、タブレット画面上で動き回るゲームのキャラクターと全く同じ格好をしているが、別にコスプレをしているわけではない。
如何にも異世界ファンタジーの登場人物ですって装いをしているにも拘らずだ。
だってそのキャラクターはそいつ自身の分身のようなものだから、同じ格好なのは当然のことだったりするのだ。
一体、何がどうしてこうなった。
うっかりあのアプリを起動したりしなければ、こんなことにならなかったというのに。
何故私は、所有者でありながら一度もまともに使っていないのに、あいつらに新品のタブレットを我が物顔で独占されなければならないのだろうか。
うん、やはりあのふざけたクソジジイは、今度会ったらもう一回殴っておこう。
それぐらい許されるでしょ。
それもこれも、全てはあのクソジジイのせいでこんなことになってしまったのだから――。
その日、その直前まで私は上機嫌だった。
電子書籍専用とも言うべき新品のタブレットを手に入れたばかりだったからだ。
私、
基本的に電子書籍より紙媒体の方が好きなのだが、就職を機に一人暮らしを始めた部屋は、大量の本を置くには狭い。
特にお気に入りのシリーズ物以外は仕方なく実家に置いてきたという状況だ。
しかもそれだけでも結構な量がある。
そして当然のことながら、新たに購入した本を置くスペースも限られている。
となるとこちらも、紙媒体で購入するのはお気に入りのシリーズ物だけになる。
つまりそれ以外は、読みたければ電子書籍を選択するしかなくなるのだ。
電子書籍サイトの読み放題で読める作品はそちらを利用し、それ以外は単品で購入しているのだが、その結果以前より多くの作品を読むことになった。
読み放題対象の作品で、今まで読んだことはなかったけど何となく気になって試しに読んでみたらハマったってことが増えたからだ。
どうせなら大きな画面で読みたいとスマホではなく主にタブレットを使用していたのだが、何だかどうも最近こいつの調子が悪い。
それで新しいタブレットを購入することにしたという訳だ。
そしてその念願の新品のタブレットを手に入れ、使用する為の設定を終わらせた。
これで今までより快適に読めると浮かれていたのだが、そこで何やら訳の分からないアプリがインストールされていることに気付いたのだ。
「勇者育成プログラム…? 何これ?」
それだけでそのまま放置していれば、今のこの生活が邪魔されることも引っ掻き回されることもなかっただろう。
それはもう、後から大いに後悔したさ。
そんでもってそのやらかした直後に思ったことが、大層的外れで頓珍漢だとも思ったさ。
でもそれは、こんな訳の分からない目に遭えば仕方ないとも思うのだ。
「あっ! やばっ…、って…、へっ!?」
そう、私はうっかりそのアプリを起動してしまったのだ。
この時点で時すでに遅し。
やらかしたと焦った瞬間、突然タブレットの画面からこれでもかというくらい眩い光が溢れ出してきた。
「えっ!? やっ!? 何!?」
当然目を開けていられなくて、ギュッと目を瞑り手で覆う。
暫くしてやっと光が収まり恐る恐る目を開けると、何が起きたとキョロキョロと部屋を見回した。
すると、如何にも異世界の人間ですと言わんばかりの格好をした奴らが五人、窓際の一角に固まって立っていたのだ。
いや、ちょっと待って、何この状況。
こいつら一体どこから現れた?
怪しげなアプリをうっかり開いたらタブレットから光が溢れて気付いたら知らない奴らがいるとかどういうことだ。
そういえば、異世界物のラノベでこれと似たような状況がよくあった気がするぞ?
いやでも、こっちが異世界転移したんじゃなくて向こうから来たからその逆だよな?
違う、そうじゃない、そんなことはどうでもいいというかそういう問題じゃない。
てか何これ、何がどうなってるの?
というか、一体何なのこのラノベのテンプレみたいな展開は?
いや、確かに私はラノベが好きだよ。
確かに好きなんだけど、だからっていくら何でもこれは違うでしょ?
いや、だってね、自分自身がラノベ的な展開に巻き込まれるなんてことは一切望んでないし、望んだことだってないんですけど!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます