笑って
「このまま笑い続ければ、核戦争は避けられない」
そう、世界中の人工知能が結論付けた。ユーモアの危険性を裏付ける複数の研究を受けてその演算は実行され、結果として、笑いは政府の管理下に置かれることとなった。コメディやジョークの私人による創作が禁止され、違反は厳しく取り締まられた。ただし、目的は笑いの管理であって撲滅ではない。笑いを保護する措置として、無意味な新語が月の始めに発表され、それがその月の「面白い言葉」となった。この言葉を見聞きした場合、人はその場で五秒以上、笑いを表明しなければならない。この取り決めに対する違反も刑罰の対象であった(当然、この強制力に乗じた場を弁えない言葉の乱用も禁じられた)。日常会話からテレビ番組まで、ユーモアが必要な場面ではこの「面白い言葉」が、ギャグやジョークそのものとして用いられるようになった。
さて、お上に決められた空虚な笑いが、果たして世界に定着するのか。当初はむしろ、この目論見の方こそお笑い草であった。しかし過渡期を通りすぎると、「面白い言葉」は確かに「面白い」ように思われ始める。思い返せば笑いとは常にそういうものであった。以前から、我々は面白いとされているものを面白いと感じてきたではないか。今はその配給元がはっきりした、ただそれだけのことなのだ。
――本当にそうか?
情勢を覆すには十分な数の人間がそう思った。虚構の笑いは、やはり受け入れ難かった。世界中の元コメディアンがそれぞれの国のトップを決める選挙に出馬し、各々が歴史的な勝利を上げた。笑いは解放され、ユーモアは再び自由になった。卑猥なジョークが教室を満たし、瀕死の芸人達は息を吹き返し、くだらない冗談が食卓に花を咲かせた。街は笑いに溢れていた。
そして三年後、戦争は起こった。
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