第19話 家出
蓮夜が家で用事をしていると、悠斗から電話がかかって来た。
珍しいなと思いながらスマホを取って電話に出ると、慌てた様子の少し大きめの声が聞こえた。
「蓮夜、お前の家に美里来てるか?」
「来てないぞ。美里がどうかしたのか?」
悠斗の問いに簡潔に答えて問いを返すと、悠斗はすぐに事情を話し始めた。
「美里がまだ家に帰ってこないらしいんだ。今、探してる最中だ。蓮夜も一緒に探してくれ」
「帰ってこないってことは帰りたくないんだろ。そっとしておいてやればいいだろ」
針が九時を指す時計を見ながら何でもないように蓮夜が返すと、悠斗が怒ったようで怒鳴り声がスマホ越しに聞こえた。
「ふざけるな!お前の常識は非常識だ!こんな時間に女の子が一人で出歩いて何かあったらどうする気だ!」
「はあ……、分かったよ。保護はしてやるが、帰るかどうかは美里次第だからな」
「保護って、どこにいるか分かるのか!?」
ため息をついて返した蓮夜の言葉に悠斗は驚いてまた大きい声で問いかけてきた。
「家出したのを今聞いて知ってるわけないだろ」
「じゃあ、どうやって保護するんだよ!」
「うるさいなー、そんなに慌てなくてもすぐに見つかる」
「ああ、悪い。それで見つかるって本当なのか?」
「ああ、今から探すから切るぞ」
「ああ、頼んだぞ」
「はいはい」
悠斗に適当な返事をして電話を切り用事を切り上げてスマホと財布を持って家を出た。
家を出た蓮夜は美里が居るであろう場所に歩いて向かった。
蓮夜は家を出て二十分程度あるいて高台の公園に着き、公園の隅に置かれている大きな土管に近づいて中を覗き込んだ。
土管の中には美里が暗い顔で俯いたまま座っていた。
「美里、家出か?」
「!?」
蓮夜が声をかけると美里は目を見開いて驚き固まった。
美里が驚いて固まっている間に蓮夜は土管に入り、美里の隣に座った。
蓮夜が隣に座ったことで我に返った美里は暗い顔に戻り蓮夜に問いかけた。
「どうしてここが分かったの?」
「少し考えれば分かる。そんなことより、俺の質問に答えてくれないか?」
「そんなことって…………うん、家出……」
姉である美咲や幼馴染の悠斗達でさえ見つけることが出来なかった場所を簡単に見つけ、そんなことで終わらせる蓮夜に美里は呆れながらも蓮夜の問いに答えてまた俯いた。
いつも生意気で馴れ馴れしい美里が落ち込んでいる姿に蓮夜は珍しいなと思いながら美里に問いかけた。
「まだ家に帰りたくないのか?」
「……」
美里は少し悲しそうな顔をして何も言わずに頷いて返した。
「そうか。じゃあ、帰るか」
「今帰りたくないっていった……」
「お前の家じゃなくて俺の家にだよ。お前、着替え何着か置いてただろ」
「そうだけど……今は一人でいたい」
蓮夜のことを見ずに俯いたまま小さな声で答える美里に蓮夜は何でもないように返した。
「残念ながら一人にしてやることは出来ないし、特に何か出来るわけでもない。まあ、家出の理由くらいは聞いてやるよ」
「……どうせ、姉さんに頼まれて迎えに来たんでしょ……」
「ん?いや、悠斗に深夜に女子が一人で出歩くと危ないだろって怒鳴られたから来たんだが」
「けど、結局は姉さんのためでしょ…………」
蓮夜は美里の問いに答えて帰って来た言葉に首を傾げ、気になっていたことを問いかけた。
「なあ、姉さんって誰のこと言ってるんだ?」
「……え?知ってるんじゃないの」
「いや、そもそも俺お前の苗字すら知らないから、姉が居たことも今初めて知ったんだが」
「…………そういえば、苗字言って無かったね」
美里は蓮夜の言葉にまた目を見開いて驚いていたが、少しして暗い顔に戻った。
蓮夜は小さくため息をついて土管から出て、未だに土管の中で座っている美里に手を伸ばした。
「ほら、帰るぞ。今日は無理だが、明日から一人で過ごせるようにしてやる」
「……理由は聞かないの?」
「聞いて欲しいなら愚痴でもなんでも聞いてやるよ。お前がそんなだとこっちまで調子が狂う」
「……なにそれ」
少し考えた美里は呆れ少し嬉しそうな顔で蓮夜が差し出した手を掴み土管から出た。
「帰ったら、ちゃんと理由話す……一つだけお願いがあるんだけど、いい?」
「話すから、願いを叶えてくれと?」
「聞かなくても叶えて欲しい……」
「相変わらず我が儘だな。まあ、今日は珍しい美里が見れたことだし、何でも叶えてやるよ」
「じゃあ……今日、一緒に寝て欲しい」
「そんなことでいいのか?」
「……」
美里の願いが意外だった蓮夜は美里に確認すると、美里は頷いて返した。
「そうか。まあ、すべては帰ってからだ」
「ん……」
蓮夜が家に帰るために歩き出すと、美里は蓮夜の上着の裾を掴み蓮夜の少し後ろを歩いて蓮夜の家に帰った。
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