第18話 下校中の悲劇

 重国が転校してきて一週間が経った頃、重国はクラスに完全に馴染んでいた。

 持ち前のカリスマで一週間でクラスのリーダー的存在になり、多くのクラスメイトに頼られるようになっていた。

 いつも通りの放課後、一人で帰ろうとする蓮夜を重国が呼び止めた。


「蓮夜」

「なんだ?何か用事でもあったか?」


 重国に呼び止められた蓮夜は何か用事があったか考えながら重国に問いかける。


「特に用事はないさ。ただ、家の方向同じだろ、一緒に帰らないか?」

「別に構わないが、一緒に帰る意味あるか?」

「意味がないと一緒に帰っちゃダメなのか?」

「……いや、そうだな。一緒に帰るなら早く準備しろ、今日は少し予定があるんだ」


 蓮夜は重国問いに少し目を見開いて重国から視線を逸らして返した。

 蓮夜の返事を聞いて重国は美咲達に視線を向けて声をかけた。


「じゃあ、帰ろうか」

「私達も一緒で良いの?」

「問題ないだろ」


 重国の言葉に美咲は少し遠慮気味に問いかけるが、重国は当然と言った顔で返した。

 そんな重国に蓮夜はジト目を向けた。


「俺は美咲さんのこと聞いてないんだが」

「大丈夫だ。美咲達にも言ってない」

「……はあ、もう何でもいいから早く帰るぞ」


 蓮夜の苦情に対して悪びれもしない重国にため息をついて返し、重国達を待っていると後ろから制服の袖を軽く引っ張られた。

 蓮夜が振り返ると智美がいつも通りの無表情で鞄を持って立っていた。


「どうしたんだ?」

「私も一緒に帰る」

「……それはいいが、今日は用事があるから勉強教えてやれないぞ」

「分かった」


 蓮夜の確認に対して智美は頷いて返し、重国達が鞄を持って近づいて来るのを一緒に無言で待った。

 重国が近づいて来て不思議そうな顔で智美を見て蓮夜に視線を向けて問いかけた。


「どうして八神さんもいるんだ?」

「一緒に帰るんだとさ」

「そうなんですか?」

「……」


 蓮夜の答えを確認するように智美に視線を移して問いかけると、智美は無言のまま頷いて肯定した。

 智美の反応に重国は少し困り、智美に聞こえないように蓮夜に近づいて耳打ちで問いかけた。


「お前と八神さんってどういう関係なんだ?」

「ん?ただの友達だが」

「八神さんが喋ってるところ見たことないんだが……」

「無口なだけで話す時は普通に話すぞ」

「そうなのか?」

「ああ」


 蓮夜の話を聞いた重国は智美の前に立って握手するために手を差し出しながら話しかけた。


「これからよろしく。重国と気軽に呼んでくれ」

「ん、よろしく」


 智美は差し出されて重国の手を握らずに小さく一礼して呟くような小さな声で返した。

 智美の対応に重国は少し困ったが手を戻し少し苦笑気味に笑いながら流した。


「それじゃあ、帰るか」

「ああ」


 重国に返事を返した蓮夜はすぐに教室から出て行き、智美は蓮夜のすぐ後ろについて出て行った。

 美咲達も蓮夜達の後について教室を出た。

 学校を出て家への道を歩いている途中で美咲は智美に声をかけた。


「八神さんも家こっちの方向なの?」

「蓮夜の家の二つ隣」

「そんなに近かったの!?」


 美咲は智美の答えに驚き、美咲の反応に悠斗と愛奈は苦笑して美咲に話しかけた。


「まあ、仕方ないさ。蓮夜も八神さんも聞かないと何も話さないから」

「蓮夜は聞いてもほとんど教えてくれないけどね」

「個人情報を気軽に話す方がおかしいだろ」

「お前はもう少し気軽に話した方が良いがな」

「言って問題ないことは話してる」

「どういう生活してたら、話して問題あることがそんなたくさん出て来るんだよ」

「それは私も気になる」


 何でもないように返した蓮夜の言葉に重国が呆れて返すと、重国の言葉に智美も賛成して蓮夜に視線を向けた。

 蓮夜が振り返ると、智美だけでなく美咲や悠斗に愛奈も蓮夜に視線を向けていた。

 そんな彼らの態度に蓮夜はため息をついて返した。


「ちょっと特殊な普通の生活だよ」

「絶対にちょっとじゃないだろ……」


 蓮夜の言葉に重国は呆れてため息をついて返した。

 蓮夜は美咲達の反応を気にせずに歩いていると、視線を感じて振り向くが誰もいなかった。


「どうかしたのか?」

「いや、見られてるような気がしたんだが、気のせいだったみたいだ」

「ん?そうか」


 急に振り返った蓮夜に悠斗が問いかけるが、蓮夜は気のせいだったと返して歩き出した。

 美咲達も気になって振り向きはしたが、誰もいなかったので蓮夜の気のせいだろうと考えて蓮夜の後を追った。


 蓮夜が視線に気づく少し前、部活が休みでいつもより早い時間に下校した美里が家への道を歩いていた。

 普通に歩いていた美里は少し先に見える曲がり角から声が聞こえてきた。

 聞きなれた完璧美少女である姉の美咲の声と姉の親友である悠斗と愛奈の声、初めて聞く誰かの声。

 初めて聞く声に美里は一月前に姉である美咲が話していた自分に興味を持たなかった人物が思い浮かび気になって曲がり角まで少し速足で移動して曲がり角から美咲達の声がした方に視線を向けた。


「!?な、なんで……」


 美里は帰る途中の美咲達グループにいる始めて見るおそらく姉の魅力に興味を示さないだろう人物より、一緒に居ないはずの蓮夜がいることに驚いた。

 楽しそうに普通の学生のように話す彼らに見つからないように曲がり角に隠れて壁にもたれかかった。


「どうして蓮夜が姉さんと一緒に……」


 美咲の妹である美里は美咲の抗いようのない魅力を誰よりも理解している。

 だからこそ、この世界で誰よりも蓮夜と一緒に居て欲しくない人物で、悠斗と愛奈に頼み蓮夜に美咲の妹であることを隠してもらっていた。

 二人が一緒に居ることを信じたくなかった美里はもう一度美咲達を見るが先ほど何も変わらず楽しそうに話す美咲達が見えるだけ。

 美里は大切な物を奪われたような無くしたような喪失感に襲われ、息苦しいほどに締め付けられて苦しい胸を抑え俯きながら美里は家とは違う方向に向かって歩き始めた。

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