第17話 畏怖の念

 蓮夜と別れた重国が教室に戻って来ると、美咲達三人が机を離して元の位置に戻している途中だった。

 重国は美咲達に近づいて三人に蓮夜について問いかけた。


「少し蓮夜について聞きたいことがあるんだが、いいか?」


 重国の問いに三人は少し驚いて顔を見合わせて重国に視線を戻して頷いて返した。


「私達も蓮夜について聞きたいことがあったのよ」

「俺の知ってることに限るが、答えられるだけは答えるよ」

「じゃあ、どこで話す?」

「ここでいい。まだ弁当も食べてないから食べながら聞かせて欲しい」

「分かったわ」


 重国は自分の席に座り、鞄から弁当を取り出して食べる準備を始めた。

 美咲達は椅子だけ持って重国の机の周りに置いて座り、話す態勢を整えた。


「それで何が聞きたいんだ?」

「中学の頃の蓮夜について聞きたいんだ。小学校の頃と大分雰囲気が違うから何かあったのか気になってな」

「ん?あいつは中学の頃からずっとあんな感じだったが、小学校の頃は違ったのか?」


 重国に問いかけた悠斗は重国の答えに悠斗と愛奈は首を傾げて問いを返した。

 重国は二人の反応に自分の知りたいことを知らないのだろうと思いながら美咲に視線を向けて問いかけた。


「美咲は何か心当たりは?」

「私は先月初めて蓮夜と話すようになったから、蓮夜についてはよく知らないのよ」

「……そ、そうですか。なら、仕方ないな」


 重国の問いに美咲は首を横に振って少し微笑みながら申し訳なさそうに返した。

 その態度に重国は少しの間見惚れて黙ってしまったが、すぐに我に返り返事を返した。

 美咲に対して見惚れても数分もかからずに我に返った重国に悠斗と愛奈は流石は蓮夜の知り合いだなと勝手に人外の括りに重国を加えて話を戻した。


「基本的に中学の頃の蓮夜は今と変わらないが、どんな奴だったか簡単に話そうか?」

「ああ、中学の頃どんなことをしてたか気になるしな」

「分かった。蓮夜は中学の頃から授業中は九割寝て過ごすし、テストでは必ず平均点を取る」

「後は人と積極的に関わらないけど、たまに自分から関わることもあるわね」

「友達として接してたら友達くらいには見てくれるが、自分のことは何も話さないから謎の多い奴だよ」

「私から言えることは私に見惚れない特殊な人ってくらい」


 三人の話を真剣な顔で聞きいていた重国は弁当を急いで食べ、お茶を飲んで軽く息を吐いて考えを述べた。


「謎が多い人外ってのは変わってないみたいだが、大分別人になってるみたいだな」

「そうなの?」

「ああ、昔の今とは完全な別人だった」

「どんな奴だったんだ?」


 重国は悠斗の問いに少し暗い顔で俯き、小学校の頃の蓮夜を思い出しながら話し始めた。


「俺が蓮夜に初めて会ったのは小一の頃、あの頃の蓮夜は完全な人外だった。感情がまるで感じられない無表情で全てを見通すような目をしていた。人というよりは超高性能のロボットのような奴で、教師もクラスメイトもあいつに関わろうとしなかった」

「そんなにやばい奴だったのかよ」

「当たり前だ。勉強、運動、知識、料理、何をやってもあいつに勝てる奴はいなかった。身体能力で圧倒的に差がある大人でさえ運動面で相手にならなかったんだ。学校始まって以来の天才の中の天才、人ではない何かだと誰もが蓮夜に対して畏怖の念を抱いていた」


 重国の説明に悠斗と愛奈は呆れた顔をし、美咲は苦笑をして返した。


「天才だとは思ってたがそこまでとは」

「天才じゃなくて天災の方が似合うんじゃない」

「あはは……、今の蓮夜からだと想像できないかな」

「俺もそれが不思議でしょうがないんだよ。確かに高学年くらいの頃は大分まともになってきてはいたが、あそこまで感情豊かではなかったし、そもそも面倒くさいなんて思うような無気力な奴じゃなかった」


 美咲の言葉に重国は同意してどうしてあそこまで蓮夜が変わったのか考えだすが、悠斗と愛奈と会った時にはすでに変わっていたため手がかりが皆無で何かあった時期しか予想が出来なかった。

 真剣な顔で考え始めた重国を見て美咲達も考え始め、少しの間考えて悠斗が一つだけ手がかりになりそうなことを思い出した。


「そういえば、蓮夜は小学校の頃は誰かに勉強を教えてたか?」

「いや、誰にも教えて無かったぞ。そもそも蓮夜にそこまで深く関わった奴なんていないはずだ」

「ちょっと待って、それはおかしいわ」

「ん?何がおかしいんだ?今話した通り、昔の蓮夜は今とは違ってまともな友達付き合いが出来る相手じゃないぞ」


 悠斗の問いをそんなことありえないと否定する重国に愛奈が声を張って否定した。

 そんな愛奈に重国は不思議そうに首を傾げて問い返すが、美咲も悠斗達と同じようにおかしいと言いたそうな顔で重国に返した。


「蓮夜が自分で言ってたの。小学校の頃、人に勉強を教えていたって」

「!?……いや、俺の知っている限りいないはずだ」


 美咲の言葉に重国は驚いてじっくりと思い出しながら考えるが一人も候補が上がってこなかった。


「だとしたら、その蓮夜が勉強を教えてたって奴が蓮夜が変わった原因なんじゃないのか?」

「恐らくな。小学校の高学年頃に変わり始めていたってなると、その頃に誰かの影響を受けていたと考えるべきだろう」

「けど、蓮夜にそれを聞いても教えてくれるとは思えないけど」

「まあ、結局は何も分からないってことか」


 悠斗はため息をついて立ち上がり、椅子を自分の席に戻した。

 重国も悠斗の言葉に頷いて同意した。


「そうだな、話さないってことはあいつも知られたくないんだろ」

「まあ、そうだよねー。けど、なんで蓮夜は知られたくないんだろ?」

「んー、蓮夜の黒歴史とかなんじゃない」

「蓮夜に限ってそれはないでしょー」


 悠斗が椅子を戻し始めたため愛奈と美咲も冗談を言いながら椅子を戻して重国に問いかけた。


「重国はどう思う?」

「そんなこと聞かれてもな……トラウマとかじゃないか?」

「あいつにトラウマ負わせられる奴なんているのかよ」

「確かに、いるわけないか」


 愛奈の突然の振りに戸惑いながらも自信なさげに出した答えたは悠斗に笑われて確かにないなと笑って返した。

 授業が始まるため図書室から智美と一緒に戻って来た蓮夜は楽しそうに談笑する四人を見て少し驚いていた。


(あいつらすごい楽しそうだな。何か共通の趣味でもあったのか?)


 蓮夜は不思議そうな顔をしたが気にせずに席に座り、午後の授業が始まってすぐに眠りについた。

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