第14話 生意気な後輩

 蓮夜と美里はショッピングモールの飲食店が並んでいる場所に来て何を食べるか店を見て回りながら考えていた。


「何を食べるか決めたか?」

「私はパスタかな。蓮夜は?」

「俺は何でもいいかな」


 蓮夜に問いかけられた美里は軽く周りの店を見てから返し、蓮夜に問い返す。

 蓮夜も美里と同じように店を軽く見て特に食べたいものも無かったため首を横に振りながら返した。


「じゃあ、パスタで決定ね」

「ああ」

「ほら、早く行きましょ」

「分かってる」


 美里は蓮夜を急かしながらパスタの店に歩いて近づき、順番待ちの名簿に神代と蓮夜の苗字を書いて店の前の順番待ち用の椅子に座った。

 蓮夜が美里の隣に座ると、美里が話しかけてきた。


「蓮夜はここ来たことあるの?」

「何回か悠斗と愛奈に連れてこられたくらいだな」

「ああ、悠斗先輩達と仲良いのは知ってるけど、休日もよく一緒に出掛けるの?」

「まあ、たまに誘われるだけだ」

「ふーん、そうなんだ」


 蓮夜の答えに美里は少し意外そうな声を出した。

 蓮夜も美里の言葉に少し気になったことがあり問いかけた。


「前々から気になってたんだが、悠斗や愛奈は先輩をつけるのに何で俺は呼び捨てなんだ?」

「それは……」


 美里が蓮夜の問いになんと答えようか悩んでいる時、ちょうど店員さんに呼ばれた。


「思ったより早かったね。早く入ろ」


 美里は蓮夜の問いに答えずに椅子から立ち上がり店の中に入って行った。

 問いに答えずに逃げるように店の中に入って行った美里に蓮夜は小さくため息をついて後を追った。

 店員に案内されて席に座り、注文をした後もう一度同じ質問をした。


「それでさっきのことだが、どうして俺は呼び捨てなんだ?」

「蓮夜って先輩の威厳無いじゃない。だから、先輩って呼ぶのは違う気がするし、さん付けもなんか変な感じだなって思って」

「確かに威厳はないかもな……」


 美里の答えに蓮夜は簡単に納得して何と言えばいいか分からずに適当に返した。

 蓮夜の反応を見た美里は少し微笑み、からかうように問いかけてきた。


「これからは先輩ってつけましょうか?蓮夜先輩」

「…………いや、いつも通りで良い。お前に敬語で先輩って呼ばれると違和感が酷くて頭痛がする」

「流石にそれはひどくない……」


 美里の丁寧な口調でからかうような問いかけに、蓮夜は片手で顔を覆いながら俯いて返した。

 その蓮夜の態度に美里は少し不満そうな顔で返した。


「まあ、二年近く呼び捨てで呼ばれ続けたからな。今更変えられると、違和感がな……」

「だからって頭痛がするは酷いと思うんだけど」

「頭痛だけで済んで良かったな」

「……頭痛以外に何があるって言うの?」


 当たり前のように返した蓮夜の言葉に違和感を感じた美里は問いかけた。

 蓮夜は美里の問いに自分の失言に少し苦い顔をして小さくため息をついて返した。


「何でもない、気にするな」

「……そう。まあ、話したくないなら無理には聞かないけど」

「そんなに大したことじゃないさ。……料理来たみたいだぞ」


 少し暗い顔をして俯いた美里に蓮夜は少し申し訳なくなり、美里から視線を店内に逸らした時ちょうど店員がテーブルに料理を持って近づいて来るのが見えた。

 蓮夜の話を聞いて美里も蓮夜の視線の先を見るころには店員がテーブルに着き、テーブルの上に料理を置いた。


「それじゃあ、食べるか」

「ん、いただきます」

「……いただきます」


 少し元気のない美里に蓮夜は少し申し訳なさそうに思いながら注文したパスタを食べ始めた。

 昼食の間は特に会話も無くパスタを食べ会計を済ませて店から出た。


「これからどうする?」

「本屋に行きたいかな」

「俺も行きたかったし、ちょうどいいな」

「……」


 蓮夜の言葉に美里は無言でジト目を蓮夜に向けて何か言いたそうな顔をしていた。

 美里の態度に蓮夜は少し目を細めて問いかけた。


「……なんだよ、何か言いたいことでもあるのか?」

「蓮夜、あれだけ本があるのにまだ買うの?」


 美里は蓮夜の家に置いてある数えるのが嫌になるほど大量の本を思い出しながら問い返した。


「当たり前だろ、家に置いてある本は読み終わったんだから」

「……はあ、そのうち家が本で埋め尽くされるんじゃないの?」

「本だけじゃなくて天然石もあるからな」


 美里の問いに返しながら蓮夜は本屋をめざして歩き出し、美里も蓮夜が移動を始めたのを見て隣に並び蓮夜の返しに呆れて小さくため息をついて返した。


「前から思ってたけど、一体どこからそんな大量にお金出て来るわけ?」

「いろいろだよ、いろいろ」

「いつもそれしか言わないじゃない」

「あんまり詳しいことは話せないから仕方ない」

「……もう少し私のこと信用してくれてもいいのに」

「ん、何か言ったか?」


 蓮夜の言葉に美里は蓮夜に聞こえないくらいの小さな声で呟いた。


「何も。それより、着いたみたいよ」

「そうだな」


 美里は首を横に振って否定して誤魔化し、目の前に見える本屋を指さして話を逸らした。

 蓮夜も美里の反応を不思議に思いながらも特に気にせずに本屋に入った。

 本屋に入った後二人は別れてお互いに欲しい本を探して本を買った。

 本を買い終わった蓮夜は本屋の前でこれからの予定を美里に確認した。


「これからどうする?」

「んー、買いたいものは買ったし、帰ってもいいんだけど……」

「何か他にあるのか?」


 蓮夜は少しこれからの予定を考えて悩み言いよどんでいる美里にしたいことが他にあるのか問いかけた。


「少し甘いものが食べたいかなって」

「甘いものか……フードコートでも行ってみるか?」

「ん、食べたいものが無かったら帰ろ」

「分かった」


 予定を決めた二人はフードコートに移動して軽く店を見て回り美里の食べたいものがあるか探しすぐに見つかった。


「蓮夜、クレープ食べよ」

「はいはい」


 美里は荷物を持っていない方の蓮夜の手を掴み引っ張ってクレープ屋の前まで移動した。

 美里はメニューを見て少し考え、蓮夜にどれにするか問いかけた。


「蓮夜どれにする?」

「そうだな……チョコイチゴかな。美里は?」

「私はチョコバナナ」

「じゃあ、これで買って来てくれ。俺は席を取って待ってるから」

「分かった」


 蓮夜は美里にお金を渡して荷物を持って席に座った。

 席を確保して蓮夜が少し待っていると、美里が両手にクレープを一つずつ持って来た。

 席の近くまで来ると美里は片方を蓮夜に手渡して蓮夜がクレープを受け取ると、蓮夜の向かいの席に座った。


「食べよ」

「ん」


 美里がクレープを食べ始めたのを見て蓮夜も美里から受け取ったクレープを食べ始めた。

 蓮夜がクレープを二、三口食べたところで美里が蓮夜のことをじっと見ているのに気づき問いかけた。


「どうかしたか?」

「チョコイチゴも少し食べたいなって」

「はあ、ほら好きなだけ食べて良いぞ」

「じゃあ、遠慮なく。あ~ん」


 蓮夜が差し出してクレープを美里は一口食べ、満足しなかったのかもう一口食べた。

 美里がわざわざ『あ~ん』と口に出しているのを不思議に思いながら蓮夜は食べ終わったことを確認して手を引きクレープを食べようとすると美里が自分のクレープを差し出して来た。


「私のも食べていいよ」

「……じゃあ、一口だけ」

「はい、あ~ん」


 蓮夜はまた声に出して『あ~ん』と言っている美里を無視して差し出したクレープを一口だけ食べた。

 美里は微笑みながら蓮夜にからかうように告げた。


「間接キスね」

「そうだな」

「……………………」


 美里のからかいの言葉に対して蓮夜は恥ずかしがることもなくいつも通りの平坦な声で返した。

 その蓮夜の態度に美里は不満そうな顔をして問いかけた。


「こんな可愛い後輩と間接キス出来たんだから、もう少し喜んだりとか恥ずかしがったりとか無いの?」

「美里」

「何?」


 不満そうな顔で問いかけた美里に真剣な顔で名前を呼ぶ蓮夜に美里は少し不思議そうに思いながら問い返した。


「お前は可愛い後輩じゃなくて、生意気な後輩だ」

「……そうだとしても、少しくらい恥ずかしがってもいいじゃない」

「生憎、そういうあざとい行為のからかいは俺には通じないぞ」

「……そ」


 蓮夜の言葉に美里は不貞腐れ、不満そうな顔で無言のままクレープの残りを食べ始めた。

 美里の不貞腐れた態度に蓮夜は小さくため息をついて同じくクレープの残りを食べ始めた。

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