第12話 テスト前の休日
いつも通り何事もなく一週間が過ぎ、金曜日いつものように蓮夜が帰ろうとしているところに悠斗が声をかけた。
「蓮夜、今週も泊まりに行っていいか?」
「悪いが、今週は先約があるから無理だ」
「そうか。なら、仕方ないな」
「じゃあ、そういうことで、またな」
蓮夜は悠斗にそういうと教室から出て行った。
教室に残っていた美咲は蓮夜を見送り、悠斗に話しかけた。
「今週はだめだったみたいね」
「ああ、約束してたわけじゃないからな」
「まあ、蓮夜相手に会う約束する人なんて一人しかいないんだけどね」
「確かにな」
悠斗と美咲の会話に入って来た愛奈の言葉に悠斗は賛同するが、美咲は愛奈の言っている人物が誰か分からずに首を傾げた。
「その一人って八神さん?」
「違うよ」
「じゃあ、私の知ってる人?」
「まあ、美咲が良く知ってる人ではあるけど……」
「それって、誰?」
美咲が愛奈に問いかけると、愛奈の代わりに悠斗が美咲の問いに返した。
「悪いけど、美咲には話さないでって頼まれてるから、誰かは言えないんだ」
「ごめんね、美咲」
「まあ、頼まれてるなら仕方ないわよ。それじゃあ、私達も帰ろうか」
「ああ、帰るか」
申し訳なさそうな顔で話す二人に気にしてないと言いながら、美咲は鞄を持ち二人に返した。
悠斗と愛奈も美咲と同じように鞄を持って美咲に賛同した。
翌日の土曜日、蓮夜は珍しく早朝から起きて本を読んでいた。
眠そうに欠伸をしてコーヒーを飲みながら本を読んでいると、インターホンが鳴った。
「もう来たのか」
蓮夜が本を閉じて壁に掛けられている時計を見ると、時刻は八時前。
時間を確認した蓮夜は立ち上がり、玄関に移動して扉を開けた。
「おはよう、蓮夜。ちゃんと起きてたんですね」
玄関の目の前には私服姿の美里が少し大きい鞄を持ち、扉を開けた蓮夜の姿を見てとても嬉しそうに微笑んでいた。
そんな誰もが見惚れそうな微笑みを浮かべた美少女を見て蓮夜は呆れたようにため息をついた。
「はあー、朝から元気そうだな」
「蓮夜が元気ないだけでしょ」
「そうか?まあ、取り合えず入れよ」
「おじゃまします」
蓮夜が家の中に入るように手で合図を出すと、美里はすぐに従い扉を開いた状態で固定している蓮夜の隣を通って中に入った。
扉を蓮夜が閉めている間に美里は靴を脱ぎ、蓮夜を待たずに荷物を持ってリビングに移動した。
蓮夜が鍵を閉めてリビングに戻ると、美里は荷物を部屋の隅に置いて蓮夜に話しかけた。
「まだ、朝食食べてないんでしょ。何か食べたいものある?」
「決めつけるなよ。特に食べたいものはないかな」
「誰かが用意しないと朝食食べないじゃない。よし、じゃあ、適当に作るね」
美里は大きい鞄からエプロンを取り出し、エプロンをつけながら蓮夜に返した。
エプロンをつけている美里を特に気にせずに蓮夜はソファーに座り、閉じていた本を持ちコーヒーを飲み美里に返事をして読書を再開した。 美里も読書をしている蓮夜に少し見た後、キッチンに移動して冷蔵庫から食材を取り出し調理を始めた。
「蓮夜、出来たよ」
「ん、分かった」
蓮夜は本から視線をキッチンに向けて美里が朝食を運んできているのを見て本を本棚に片づけるために立ち上がった。
本を片付けて蓮夜がソファーに戻って来ると、美里が蓮夜の前に料理を並べていた。
飲み終わったコーヒーのコップを持ってキッチンに歩いていく蓮夜に美里が声をかけた。
「私もコーヒー貰っていい?」
「分かった」
キッチンに移動した蓮夜は両手にコップを持って戻ってきてソファーに座り、隣に座っている美里の前に片方のコップを置いた。
「ミルクと蜂蜜は入れてある」
「ありがと」
美里はコーヒーの入ったコップを持って蓮夜が朝食を食べるのを見ながら少しずつ飲み、蓮夜と雑談をしながら蓮夜が食べ終わるのを待った。
蓮夜が朝食を食べ終わると、美里は食器を持ってソファーから立ち上がった。
「洗ってくる」
「ん、コーヒーのお替り入れとくわ」
「お願い」
食器を持って行く美里と一緒に二つのコップを持って蓮夜もキッチンに向かった。
流し台で食器を洗っている美里の隣で、蓮夜はコーヒーを入れてミルクと蜂蜜を入れてリビングに戻った。
リビングに戻った蓮夜はソファーに座ってスマホでメールやSNSの確認をしていると、食器を洗い終わった美里がリビングに戻って来た。
美里は蓮夜の隣に座り、テーブルに置いてあるコーヒーを一口飲んで蓮夜に話しかけた。
「それで、これから何する?」
「……何かやることがあったから来たんじゃないのか?」
美里の言葉に呆れた蓮夜はため息をついて美里に問い返した。
何を言っているか分からないっといいたそうな顔で首を傾げた美里は蓮夜の問いに返した。
「特に何もないけど」
「…………はあー、本当に何しに来たんだよ」
自分から泊まりに行くと言っておきながら当然のようにすることはないという美里に蓮夜はもう一度ため息をついて愚痴をこぼし、コーヒーを飲みながら何をするか考え始めた。
(特にやることないし、昼寝でもしようかな……)
「あ、昼寝とかはなしね」
「……」
考えが読まれた上に案を潰された蓮夜は美里にジト目を向けた。
「……美里は何かやりたいことないのか?」
「私は……買い物に行きたい」
「俺、月曜日テストあるって知ってて言ってる?」
「知ってるし、私もテストあるわよ」
「……お前、勉強しなくていいの?」
何でもないように話す美里に蓮夜は呆れた顔で問い返すが、美里は微笑んで返した。
「普段からしてるから多少サボっても問題なし、それに蓮夜にだけは言われたくない」
「そうだな。勉強しないといけないな。じゃあ、俺は勉強するから買い物には一人で言って来てくれ」
ソファーから立ち上がりどこかに廊下への扉に向かおうとする蓮夜を美里は腕を掴んで止めた。
「どうせ勉強するって言って昼寝するつもりなんでしょ。それに勉強しなくても簡単に百点取れるででしょ」
「放せ、美里。俺はこれから睡眠学習のために昼寝をしないといけないんだ」
「やっぱり寝る気じゃない」
「違う、睡眠学習は寝ているうちに勝手にテスト範囲の内容を学習してくれる素晴らしいものだ。だから、昼寝しよう」
「はあ、そんな都合のいいものじゃないし、蓮夜だってどういうものか分かってるでしょ」
適当なことを言って昼寝をしようとする蓮夜に美里は呆れてため息をつきながら返した。
蓮夜も力を込めて掴んでいるわけでもないのに振りほどこうとしないことから本気で抵抗する気はないのだろう。
「じゃあ、買い物から帰ってきた後夕飯まではゆっくり寝てていいから、行かない?」
振り向いて美里の顔を見た蓮夜は、真剣な顔をしている美里を見て少しため息をつき、ソファーに座り直した。
「もう少しゆっくりしてからな」
「ん、分かった」
蓮夜の答えを聞いて美里は嬉しそうに微笑み頷いて返し、蓮夜と同じようにコーヒーを飲みながら雑談をして出かけるまでのんびりと過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます