第9話 勉強会

 蓮夜達が雑談を始めてしばらく経ち悠斗が時計を見て三人に問いかけた。


「もう少しで十二時だが、みんないつくらいに寝るんだ?」

「俺は、四時か五時くらいまでなら起きてられる」

「そんな時間に寝てるから昼間眠いんっだぞ」


 悠斗の問いに微笑みながら言う蓮夜に、呆れて苦笑しながら悠斗は返した。

 蓮夜に返事をして悠斗は他の二人に視線を向けて確認した。


「私は、そろそろ寝ようかな」

「私も眠くなってきたし、そろそろ寝たいかな」

「なら、そろそろ切り上げて寝るか」

「少し待て」


 二人の意見を聞いた悠斗は雑談を切り上げ、コップを片付けるために立ち上がろうとして蓮夜に止められた。


「なんだ?まだ、話してたいのか?」

「いや、寝る前に決めておかないといけないことがあってな」

「決めておくこと?」

「明日の朝食を誰が作るか決めておかないとだろ」


 蓮夜の言葉に納得したように立ち上がろうとしていた悠斗はソファーに座り直し、愛奈と美咲も蓮夜を見て続きを待った。


「今晩と同じように俺が作ってもいいが、俺が起きるのを待ってると朝食が昼食になる可能性もあるからな」

「つまり、何時に起きるか分からないってことだろ」

「そういうことだ」


 蓮夜の言葉を聞いて悠斗と愛奈は呆れてため息をつき、美咲は苦笑して小さく手を上げた。


「じゃあ、明日の朝食は私が作るよ」

「なら、私も手伝うよ」

「決まりだな、明日の朝食は愛奈と美咲さんに任せるよ。冷蔵庫に入ってるものは好きに使っていいから」


 蓮夜はそれだけいうと自分のコップを持ってキッチンに移動して軽く洗いリビングから出て行った。

 三人も蓮夜と同じようにコップを洗いリビングを出て客間に移動して眠りについた。

 翌日の七時に蓮夜以外の三人は起きて朝食の準備を終わらせていた。


「やっぱり、蓮夜はまだ起きてこないな」

「まあ、こんなに早くに蓮夜が起きてくる方が異常でしょ」

「朝食が温かいうちに起きて来るでしょうか?」


 美咲は朝食の準備を終えてソファーに座り、予想通りといったような顔で話している二人に問いかけた。

 二人は美咲の問いにため息をついて首を横に振った、美咲は二人の態度に苦笑した。


「じゃあ、起こしに行った方がいいかな?」

「そうだな」

「今日はテスト勉強をする予定だしね」


 面倒くさそうに立ち上がり、蓮夜の部屋に行こうとする悠斗と愛奈に美咲は声をかけた。


「私も一緒に行く」

「別に待っていてもいいぞ」

「一人で待っていても暇だし、一緒に行くわ」

「じゃあ、一緒に行くか」


 三人は蓮夜の部屋の扉を軽くノックして、返事がないことを確認して扉を開けて中に入った。


「蓮夜、朝だぞー」

「おきなさーい」

「あはは」


 悠斗と愛奈は平坦な声で蓮夜に呼びかけながら部屋の中に入り、美咲は苦笑しながら二人の後を追って部屋の中に入った。

 部屋の中心にはキングサイズのベッドが置かれているが、蓮夜は寝ておらず部屋を軽く見渡しても誰も見つからなかった。

 部屋の壁は本棚によって大部分が隠されており、ベッドと本棚以外では卵型のハンギングチェアが一つ窓の近くに置かれているだけだ。


「はあ、またか」


 悠斗は呆れたようにため息をついてハンギングチェアに近づいていく、愛奈と美咲も悠斗の後を追って近づいていくと、ハンギングチェアで蓮夜が眠っていた。

 蓮夜の様子からハンギングチェアで本を読んでいる途中で眠くなり、本にしおりを挟んでそのまま眠ったのだろう。


「いつもこんな感じで寝てるの?」

「まあ、誰かが泊まりに来てる時はいつもそうだな」

「誰かが来てると、作業しないから眠くなるまで本読んでそのまま眠っちゃうから」

「そ、そうなんだ……」


 二人の話を聞いて美咲は呆れたように蓮夜を見ていると、悠斗が蓮夜の頬を軽く叩き始めた。


「ほら、朝だぞー、早く起きろー」

「ん、ん~、悠斗……か。今……何時だ?」

「七時十分だ。朝食出来てるから早く起きろ」

「ん、わかった。すぐに行くからリビングで待っててくれ」

「了解」


 蓮夜がハンギングチェアから立ち上がって本を片付けるのを見て悠斗達は部屋から出て言われた通りにリビングで待っていると、服を着替えた蓮夜がリビングに入って来た。


「待たせたな」

「蓮夜も来たしさっさと食べるか」


 蓮夜が席に座ったのを確認して悠斗が手を合わせたのを見て他の三人も手を合わせてからそれぞれのペースで食べ始めた。

 朝食を食べ終わると、悠斗と蓮夜が食器を片付け始め美咲と愛奈は勉強の準備を始めた。

 食器を片付け終わった蓮夜と悠斗も勉強の準備をするためにリビングから出て行った。

 二人がリビングに戻ってきてすぐに勉強会が始まったが、蓮夜は宿題を十分程度で終わらせてリビングに置いてる本棚から本を取り読み始めた。


「蓮夜は勉強しなくて本当に大丈夫なの?」

「ああ、前にも行ったが俺は問題ない。それに、悠斗達が勉強を教えて欲しいから今日来たんだろ」

「そうだったの?」


 心配そうに問いかける美咲に蓮夜は本を読みながら返し、蓮夜の言葉を聞いて美咲は悠斗に問いかけた。


「ああ、中学の頃もテスト前に勉強教えてもらってたからな」

「私は心配な時だけ教えてもらってたけどね」

「言ってくれれば私も教えたのに」

「美咲も真面目に勉強してたから邪魔するのは悪いと思ってな」

「まあ、美咲には聞きにくいのよ」


 悠斗と愛奈は少し困ったような表情で美咲に返した。

 二人の返事に美咲は少し悲しそうな顔で返した。


「別に親友なんだから遠慮なんてしなくていいのに……」

「ま、まあ、これからは出来るだけ遠慮せずに聞くよ」

「そうね。美咲も分からないところがあったら聞いてね」


 悲しそうな顔をした美咲を見て二人は慌てた様子で慰めように返した。

 二人の慌てた態度を見て美咲は薄っすらと微笑み笑い出し、そんな美咲の態度を見て二人も笑い出した。


「お前ら、勉強しないの?」

「「「します」」」


 三人の様子を見ていた蓮夜が三人に問いかけると、三人は蓮夜に呆れた顔で見られていることに気づき返事をして勉強を再開した。

 勉強を再開した三人を見て蓮夜も読書を再開したが、少し経つと悠斗が蓮夜に声をかけた。


「蓮夜、ここ教えてくれ」

「そこは……これを使って……」


 蓮夜は悠斗が開いていた教科書のページを変え、公式の使い方など悠斗が自分で解けるように簡潔に教えて読書を再開した。

 美咲は蓮夜が教える姿を見て感心して蓮夜に声をかけた。


「蓮夜、教えるの上手いんだ」

「小学校の頃から教えてたからな」

「悠斗と小学校の頃から知り合いだったの?」

「いや、悠斗と知り合ったのは中学からだぞ」

「じゃあ、小学校のころは他の人に教えてたんだ」

「そんなこと気にしてないで勉強しなくていいのか?」


 勉強の手を止めてずっと話しかけてくる美咲に蓮夜が問いかけると、美咲は勉強を再開した。

 勉強会が始まってしばらく経ち、蓮夜はソファーから立ち上がって本を片付けてキッチンに向かった。


「蓮夜、どうしたの?」

「お前ら勉強してるから、昼食を作ろうと思ってな。少しの間教えなくても大丈夫だろ」

「ああ、昼食頼んだぞ」


 美咲の問いに返して蓮夜はキッチンに移動し、昼食を作り始めた。

 蓮夜が昼食を作り終え、三人が勉強を中断して昼食を食べ終わった後も三人が勉強をしている間に蓮夜は食器を片付けた。

 同じように夕食も蓮夜が作り、片付けまでを一人で終わらせた。

 蓮夜の手が空いている時に悠斗と愛奈は勉強を教えてもらいながら土日の間勉強会は続いた。

 美咲は蓮夜が料理を作ろうとすると、手伝おうと声をかけるが全て断られ蓮夜が料理や用事をしている間だけ、蓮夜の代わりに悠斗と愛奈に勉強を教えた。

 日曜日の夕方に勉強会は終わり、蓮夜の家の前で解散になった。


「その、いろいろとありがとう」

「別に気にしてないから、じゃあまた明日」


 申し訳なさそう顔で言う美咲に蓮夜は何でもないように返した。

 蓮夜は三人を見送らずに家の中に入って行った。

 三人は蓮夜が入って行った玄関の扉を見て、雑談をしながら帰っていった。

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