第8話 雑談

 客間に荷物を運んだ悠斗達はリビングに戻って来ると、蓮夜が本を読みながら待っていた。


「部屋の確認はもういいのか?」

「ああ、後は寝る前にでもできるからな」

「それに何回か泊まりに来てるしね」


 蓮夜の問いに対して悠斗と愛奈は何でもないように返したが、何も言わない美咲に蓮夜は視線を向けて問いかけた。


「美咲さんもいいの?」

「え?う、うん、私も後で大丈夫だよ」

「なら、これからどうする?」


 蓮夜の問いに三人はソファーに座りながら各々の考えを話し始めた。


「勉強は明日にして今日は遊ぼうぜ」

「私も遊びたい」

「お前ら、テスト勉強しに来たんじゃないのか?」

「勉強会は明日と明後日するから大丈夫」


 二人の答えに呆れた顔で二人を見てため息をついた後、美咲に視線を向けた。

 視線を向けられた美咲はやりたいことを答えた。


「私はこのまま話してたいかな」

「話してたいってなんでだ?」


 予想してなかった答えに首を傾げながら問い返すと、美咲は少し恥ずかしそうな顔をして答えた。


「私はまだ蓮夜のことあんまり知らないから、いろいろと知りたいなと思って」

「ああ、確かに俺もあんまり美咲さんのこと知らないな」

「でしょ、だからいろいろと話しましょう」

「まあ、そうだな」


 美咲の話に納得し頷いて本にしおりを挟んで閉じた。

 蓮夜はソファーから立ち上がると、リビングの置いてある本棚に本をしまって美咲たちに問いかけた。


「コーヒーと紅茶どっちが飲みたい?」

「コーヒーで」

「私は紅茶」

「えっと、じゃあ、私も紅茶で」

「分かった。すぐに準備するから雑談でもして待ってろ」


 それだけ言うと蓮夜はキッチンへ移動して紅茶とコーヒーの用意を始めた。

 少しすると、トレイの上にコーヒーと紅茶の入った四つのコップと四つのスプーン、角砂糖と粉ミルクの入った瓶を乗せて戻って来た。


「砂糖とミルクは好きなだけ入れてくれ」


 蓮夜はそう言うと自分の分のコーヒーを取り、角砂糖七つと粉ミルクをスプーン一杯分入れてスプーンで混ぜ始めた。

 美咲達も蓮夜に軽くお礼を言って各々の好みの量砂糖とミルクを入れて混ぜ始めた。


「それじゃあ、何から話す?」


 コーヒーを一口飲んで味の確認をした蓮夜は、コーヒーを自分の前に置いて三人に問いかけた。

 悠斗と愛奈は美咲に視線を向け、二人が視線を向けたため蓮夜も美咲に視線を向けて美咲が話すのを待った。

 三人の視線が集中して少し困ったような顔で美咲は慌てて適当に思いついたことを話した。


「えっと、好きな事とか?」

「寝ること」

「え、え、えっと……」


 美咲の話題に対して蓮夜が即答したことで美咲は反応に困り悠斗と愛奈に視線を向けて助けを求めた。

 二人は困った表情で助けを求められ苦笑しながら蓮夜に話しかけた。


「蓮夜、即答で返したら話が終わるだろ」

「ん?ああ、それもそうだな」

「はあ、他に好きなこと無いの?」


 悠斗に注意された蓮夜は愛奈の問いに即答せずに寝ること以外の好きな事を考え始めた。


「そうだな。寝ること以外だと貯金かな」

「貯金?どうして好きなのですか?」

「数字が少しずつ増えていくのを見ると楽しいからかな」

「それって……楽しいですか?」


 微笑んで言う蓮夜だが、美咲は何が楽しいかよく分からずに問い返した。


「ああ、楽しいぞ。やってみれば分かる」

「そ、そう。私もやってみようかな……」


 当然だというように言う蓮夜に美咲はやってもないことを否定できないためあまり否定せずに流した。

 しかし、蓮夜の言葉に悠斗と愛奈は不思議そうな顔で蓮夜に問い返した。


「本当に、貯金してるのか?」

「ああ、しっかりと貯金してるぞ」

「嘘よ。だって去年とか十数万の物をカードで買ってたじゃない」

「あれは自由に使うって決めたお金で買っただけだからな」

「十数万も自由に使ってその上貯金ってどんだけお金持ってるのよ」


 コーヒーを飲みながら返す蓮夜に愛奈は呆れてため息をつきながら頭を抱えた。

 美咲は話の中で気になっていたことを蓮夜に問いかけた。


「あの、カードって蓮夜はクレジットカードを持ってるの?」

「いいや、クレジットカードじゃなくてプリペイドカードだ」

「プリペイドってことは蓮夜がお金を入れてるの?」

「当たり前だろ、自分が自由に使うって決めた分だけ入れて使ってる」

「お金の管理しっかりとしてるのね」


 蓮夜の話を聞いて美咲は感心したような顔で蓮夜を見た。


「俺の話はこれくらいでいいだろ」

「いや、お前はもっと自分のこと話してもいいくらいだからな」

「なんで?」


 話題を変えようとする蓮夜に悠斗は呆れて蓮夜の話を続けようとするが、蓮夜は理由が全く分からずに首を傾げて問い返した。

 その態度に悠斗と愛奈は呆れてため息をつき頭を抱えて話しかけた。


「お前は隠し事が多すぎるんだよ。両親と一緒に住んでない理由もいつも夜中に何をしてるのかも、全然話さないだろ」

「そんなこと言われてもな。お前らだって話してないことあるんだから、お互い様だろ」

「私たちが何を話してないって言うの?」

「好きな人や初恋の話とか」


 愛奈の問いに蓮夜は当たり前のように返すが、その返答に三人は蓮夜を凝視して固まった。

 三人の態度に蓮夜は不思議そうな顔をして首を傾げた。


「どうしたんだ?」

「いや、そういう話は普通、話しにくいものだろ」

「俺も話しにくいことを話してないだけだからいいんじゃないか?」

「そ、そうだな」


 悠斗と愛奈は蓮夜の言い分に納得してしまい何も言い返すことが出来なかった。


「じゃあ、私が話しにくいことを話したら、蓮夜も話してくれる?」

「ん?話さないけど」

「どうして?」


 真剣な顔で蓮夜の目を見ながら問いかける美咲に蓮夜はコーヒーを少し飲んで当たり前のように返した。


「美咲さんが俺を信用出来たとしても、俺が美咲さんを信用出来ないなら話さないのは当たり前だろ。本当に話してほしいなら、話してもいいかなって思えるくらい信用出来るような人になることだな」

「……蓮夜の言う通りね。話してもらえるように頑張るわ」


 蓮夜の言葉に美咲は納得したが、悠斗と愛奈は不思議そうな顔をして蓮夜に問いかけた。


「なあ、蓮夜はどうして美咲に魅了されないんだ?」

「あんたの目腐ってるの?」

「それ罵倒されるほどのことか?」


 蓮夜は愛奈の罵倒にジト目を向けて聞き返すが、悠斗と愛奈は頷いて返した。

 二人の返しに蓮夜は呆れて苦笑して美咲の顔を見た。


「美咲さんは確かに美人だし、今まで見て来た人の中で群を抜いて綺麗だとは思うけど」


 美咲の顔を見て思ったままの美咲の評価を話す蓮夜に美咲は少し恥ずかしそうにしながら聞き、悠斗と愛奈も真剣な顔で蓮夜の評価を聞いていた。


「けど、それだけだろ」

「「「…………え?」」」

「だから、ただ人より顔が整ってるだけだろ」


 当たり前のことを言う蓮夜に対して、三人は何と言っていいか分からない顔で蓮夜を見つめた。

 確かに蓮夜の言うことは正しい、美しいものを見て受ける影響は人によって変わるが、美咲の美貌にその常識が通じたためしがないのだ。

 だからこそ、当たり前のことを当たり前として受け止めている蓮夜が三人には異常としか思えない。


「そんなにおかしいか?」

「おかしくはないよ」

「いや、まあそうなんだが、そうなんだがな」

「美咲の美貌に関しては例外というか……」

「はあ、まあ言いたいことは分かったよ」


 三人の何と言っていいか分からないという態度に蓮夜は納得して返した。


「まあ、美咲さんが特殊って言うことはよくわかった。だから、この話はもうやめよう」

「そうだな」

「そうね」

「私の扱いはそんな感じなのね……」


 蓮夜の言葉に悠斗と愛奈は納得したが、美咲は特殊な扱いをされることに少し不満を感じながらも話題を変えることにした。

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