カシミール地方
@sensyamen
カシミール地方
彼女はイエイヌのフレンズ。
名は縫(ぬい)。
サンドスター反応装置により、保健所から生誕。
イエイヌとしての年齢は不明。
同年4月社会行政地区にて工場勤務を得て自ら近畿州立大学を志望しはれて入学。
卒業後は、社会行政地区にある自動車整備工場に就職するが、経営者が労働基準法違反と脱税が発覚し逮捕されたため、倒産。
再就職をするが、起動にのらず、職を転々とする生活が続く。
出会いはあるビラだった。
それも、違法に、電柱に張られたビラ。
「世界革命を成功させよ!」と言う内容。
ビラに書いてある会場へ向かい、入場料5円を支払った。
カシミール地方。
インド軍やスタン連邦軍、そして中国軍の三つ巴の国境紛争がおこっている中、4つ目の勢力である世界連合赤軍という共産思想組織が、インド、スタン連邦、中国を相手に戦っていた。組織の全容としては中国内戦により敗走した元人民解放軍人と兵士凡そ24万人、中国内戦と同時期に発生したネパール内戦で王復派に敗れた元ネパール人民解放軍人とその兵が数千人。
インドから逃亡した共産ゲリラ数千人。
タイやカンボジア、マレーシア等から逃亡した共産ゲリラ数万人。
ベトナムの毛沢東派ゲリラ数百人。
アラビア民主革命軍残党数千人。
第三次世界大戦で敗北した朝鮮労働党の残党をはじめとした兵力凡そ5万。
そして日本や韓国、イギリスやスカンジナビアから来た過激派の労働党員や共産主義思想の人間等、ヨーロッパ諸国から数千人の共産思想を持った何千人もの若者が兵力に加わった。
彼女は日本から来たその一人。
五円を支払った翌週である。
「伏せろーッ!」
爆撃機、数十機は中国軍も赤軍も見境なしに爆撃。
インド軍の爆撃機だからだ。
大きな爆発が毎分30回くらい連続する。
伏せろと云われ腹ばいになり、頭を手で覆っている縫の上から爆発で巻き上げられた土やら砂やらが降ってくる。激しい爆撃は治まり奇妙な静けさが残る。
縫は顔を上げる。さっきまでほんの少し盛り上がりがあり殆ど平らと言って良い位の地面だったのがクレーターだらけになっていた。
すると彼の横で伏せろと指示した同じ声で「みんな無事か」と聞こえる。
さっき迄あった中国軍の車両は見る影もなく大破していた。
中国軍の士官は「くそ、空軍は何をしている!?」と怒鳴った。
「いまだ撃て!撃て!」
彼らはカラシニコフやM2カービンを爆撃で大破された車両に向け、フルオートで銃撃した。
中国軍も95式自動歩槍で応戦。
応戦の最中、縫はまだ伏せてる同僚を見つけると「ちょっと」と言い叩くが彼は既に先程の爆弾の破片で死んでいた。
すると、敵の後ろから中国軍の99式戦車がやってくる。
それが5台位横に並び、右から左へ順番に砲撃してくるのでひと溜まりもない。
それだけではなく戦車の後方からは自走砲が二両が交互に砲撃し、戦車から自走砲迄の間には迫撃砲部隊があり、迫撃砲弾が次々と撃ち出されている。
縫の同僚、そして一つか二つ上の上司が次々と死んでいった。有るものは跡形もなく吹き飛ばされ、あるものは身体の半分を失った。
「撤退!撤退だ!このままだと全滅だ!」
彼の上司は撤退を決断。さっき迄あった1個大隊分の戦力は小隊以下の規模になっていた。
戦車隊の後ろから歩兵支援の装甲車両や先程の爆撃で大破した物と同型の車両が走ってくる。
縫等は仲間と逃げる。
向こうにいる指揮官には味方のほぼ全滅を伝えた。
5日前
タイへ入国。
サングラスを掛けた男が空港に迎えに来る。
空港を出ると、縫達はワゴン車にのせられ、ラオスとカンボジアと本国の国境付近に連れて来られた。
ここから国境を伝うように野も山も越え、国境警備を掻い潜って。やっと着く。
ミャンマーやバングラデシュを通り越し、インドと中国の間を通り抜けたのだ。
縫には当然、ただならぬ疲れが表に出た。何度も車を乗ったり降りたり、時にはカヌーに乗ったりして忙しかったからだ。
時には投光器に発見され銃撃に遭い、仲間が1人か2人死んだ。
赤軍に入り、早々に一ヶ月が過ぎようとしていた。
その朝。
中国国内にあった赤軍支配地域がほぼ全て陥落したという話だ。
東トルキスタンの支配地域もそのお陰で危ないらしい。
司令官によると、最前線の残存兵力を全てカシミールに終結させ、そこで粘る内にカシミール人民共和国を国連で承認させる魂胆であるが三つの勢力から目の敵にされている状況で承認まで粘れるのかはほぼ賭けである。
現に国土が狭く、人口が少ない国が広い土地を手にいれようとして失敗する事は歴史が証明している。だからあえて戦域を縮小して此方の土地を守りやすくする手も悪くないと思ったのだろう。
作戦は部隊の帰還完了と同時開始との言う説明であった。
戦力の内訳
戦車 1500
その他戦闘車両 2200
火砲 800
歩兵 19万
工兵 8万
回転翼機 50
固定翼機 22
こうした準備が着々と進められた。
19万残っている歩兵だが、質としては決して良いものではない。尚、縫も質の良くない兵の一人だ。
コレは、その次の日の夜。
「ちょっと話がある。」
縫の直属の上司、笹木隊長。
ホワイトタイガーのフレンズだが、性別がオスという特殊な事情がある。
彼は、縫を静かな所へ連れていき、赤軍から脱走するという旨の話を聞かされた。
縫は何故と聞く。
理由は2つ。
1つは、これ以上の戦局の打開は不可能と思ったから。もう1つは犬死には御免だと云う。
もう既に自分の部下全員には彼の息がかかっており、後は縫だけだという。
縫は承諾した。理由は余り話せなかったが、「貴方が行くなら・・・」と、言った。
明くる日。守りに専念するために、次々と部隊が戻って来る。
怪我人は居るものの軽傷者しかいない。司令部は戦いかたの優秀さ又は我々司令部の優秀さであるとの旨の話を聞かされたが、赤軍に参加した全員が重傷者を戦地に置いてきただけと言うことを知るのはずっと後の事だ。
帰還する部隊が僅かとなった日。
遂に脱走計画が遂行される。縫を始めとした笹木の部下とその本人がトラックに乗り込もうとする。
しかし、先客がいた。
自分たちの他に脱走を試みる集団が居る様だ。
大型トラックに一台分の人数。
しかし彼らは嗅ぎ付けられていたのかサーチライトを当てられて銃撃を受ける。
そんな中、笹木は策を思い付く。銃撃をしている背後から、笹木を長とした分隊を回り込ませ、一方的に銃撃した。
残りの仲間は、全員トラックに乗り、エンジンを掛けさせた。
「みんな急げ。」笹木は先客の乗ったトラックに便乗する。
5~6台のトラックの列が走り出す。
銃声を聞き付けた警備兵がもう一派殺到する。
発進するトラックを見つけた時は既に遅し、それに向かって発砲する。
が、既に弾が届く距離でなく、闇の中へと消えた。
彼の目論みはこう、イヤ、単純だ。
離反した組織のように大規模な武力制圧をし、大規模な占領拠点を有して国家宣言をするよりも、ゲリラ的テロに及んだ方がよいと考えたからである。
「みんな、聞いてくれ、離脱したいやつは正直に言ってくれ。これ以上仲間を殺したくない。だから・・・正直に言ってくれ。」
常々、離脱を考えていた縫が正直に手を挙げると、100人ほど居る集団の中から2~30人挙手する。
笹木は、挙手した人数を数え、「よし、君達を一番近い国境近くまで連れてく。」
挙手をした者は皆、私服であった事も幸いし、逃げた後に身分を隠す必要はほぼ無かった。
近くの国境迄トラックを走らせた。
離脱したい者は全員銃を所持してはいない。離脱したくない考えで且つ銃を所持していなかった者には、拳銃を渡された。
それでも足りないと・・・・。
ある時、笹木は武器調達と称して戦闘地域に潜伏する赤軍とは別の宗教系のテロ組織の拠点に行く。
その拠点からやや距離を置いた所に迫撃砲を備え、笹木らは慎重に、隠れてその拠点に近づく。
縫たちは、トラックに備えてあるソードオフの二連銃を持って車内で待機している。
作戦が失敗した場合に備えて運転手が何時でも発進できるように準備していた。
その遠くで爆発が聞こえる。
迫撃砲弾の音。
笹木達は、砲弾の弾着と同時に、何事かとなん棟かの平屋の兵舎から出てくる敵を機関銃で掃射する。
迫撃砲部隊が指定された数の砲弾を撃ち尽くすと、笹木は何かの錠剤を口に含み、水を飲むと、笹木率いる大勢と共に拠点に乗り込む。
笹木が持っているのは、拳銃とコンバットナイフだけだ。
錠剤の効果なのか、さっきまで人間並みだった脚力が、所謂『パーク内にいるフレンズ』が本気を出した速さになった。
迫撃砲の砲撃と機銃掃射により、敵の方に居た200人程の兵力は半数以上潰された。
そこへ野生解放したホワイトタイガーのフレンズが、コンバットナイフと拳銃を持って、突入してくる。
後ろには彼の仲間が、50人ほどついてくる。
敵は自動小銃や拳銃を発砲するが、アニマルボーイやアニマルガール特有の俊敏な動きで避けられ、喉を切りつけられたり、頭を撃ち抜かれたりした。
挙げ句は、奪われた自動小銃で殲滅される。
笹木が物陰へ行き、敵はそちらへ向けて発砲するが、銃口向けてる反対側に居る笹木の部下達に隙を見せてしまい、後ろから殲滅される。
ものの数分で片付いた敵の拠点にある弾薬庫から弾を調達し、食料庫からは食料を調達した。
死体の傍の長物の銃を拾い、ピストルしか持っていない仲間に与えた。
そして、待たせてるトラックへ向かう。
その前に、迫撃砲の陣地に向かう。
が、しかし。
迫撃砲の陣地には人がおらず、歩哨すら立っていない。
「誰もいない。どういう事だ」と仲間の一人が言う。
すると、闇の中からパタパタと足音がすると思うと、迫撃砲弾を抱えた男達が来た。
笹木と目が合うと「マズい」という感じの顔してまた闇の中へと消える。
「待て、逃げること無いだろ。」
彼らを追う笹木。
逃げる彼らはトラックへ向かう。
トラックの所へ着くと、笹木達は目を疑った。
トラックで待機していた者達が射殺された状態で散らばっている。
まさかと思っている間もなく、列の一番前のトラックが発進する。
トラックの荷台にいる者が両手で何かを投げてきた。
笹木には何を投げたのかが解ったのだろう。
彼は「散れ!」と叫び、皆が散った瞬間投げた何かが爆発した。
迫撃砲弾に小型の爆弾を接着し、大型の爆弾に変えていたのだ。
笹木とその仲間の上にパラパラと土が落ちてくる。
「追うんだ!」
笹木達はトラックに乗り込み、逃げる迫撃砲部隊を追う。
縫は笹木の中では死んだかと思ったが、トラックの荷台の隅でうずくまって銃撃から逃れていた。そのトラックの荷台から笹木の部下が逃げるトラックを自動小銃で銃撃する。
追われる側も応戦する。
追うトラックが、近くまで来ると、また迫撃砲弾を投げようとする。
しかし助手席に座っていた笹木がピストルで投げようとした者を狙撃した。
狙撃されると、その迫撃砲弾を荷台の床に落下し、トラックは爆発。
積載していた複数の迫撃砲弾も誘爆する。
トラックは運転席を残して殆ど粉々になった。
ガソリンが爆発し、笹木たちの顔をオレンジ色に照らした。
トラックは例の場所に戻る。
残されたトラックの回りの射殺体を丁重に埋葬し、その場を後にした。
数十人居た離脱者は半分以上射殺された。
生き残った者は、縫の様に荷台の片隅にいるか、車体の下に隠れて凌いでいた。
カラシニコフ等で掃射した後に、笹木達が帰ってくる前にしらみ潰しに隠れているのを殺そうとしたらしいが、彼らが思ったよりも速く戻って来てしまっていたらしい。
縫はまだ震えている。
彼女は肩を叩かれ、ビクッとする。
「行けるか?」顔をあげると笹木の顔があった。
生き残った何人かの離脱者に一人一人声をかけたあとだった。
ハッとした縫は、「は・・・・はい。」と答える。
縫と縫以外の離脱者5~6人以外は放心状態だった。
トラックは走る。
笹木は辺りを見回しながら揺れるトラックの助手席に座っていると、灰色の壁の廃墟が目に入った。
「とめろ。」と笹木が運転手に促す。
笹木はどうもこの廃墟を離脱者を送る為の新しい拠点にしようとしている様だ。
出入口と思われる場所にトラックを止め、擬装を施した。
どうやら爆撃か砲撃に遭っているらしく、内部は煤だらけで、殆ど壁だけになっていた。壁沿いに僅かに、二階や三階の床がほんの一畳、二畳程、へばり着くように残っている。黒く焦げた鉄の階段を上り、3階の有った所まで行くと、辺りを見回せた。
砲撃や爆撃で荒れた大地が広がっていて、戦闘の激しさを物語っている。
遠くで幽かに砲声や銃声がする。
空を見上げると、日が暮れようとしている。
二階のへばり着いてる床に、機銃を置き、三階には歩哨を立たせて辺りを警戒させた。
次の日は雨で、録に所か全く舗装されていない道を、トラックで走るのは難しいとし、移動は断念。
もう一晩ここで過ごす事になってしまったその日。
なにかを察した笹木が、寝袋から飛び起き、階段を上がって三階まで行く。
歩哨を尻目に証明弾を打ち上げる。
証明弾は廃墟を囲む敵兵を照らした。
機銃手と三階と出入口の歩哨が、敵を見つけるや、銃弾をばらまく。
笹木の行動は項をそうしたのか、銃撃された途端に敵兵はバタバタと大勢倒れた。
笹木も、手にしたカラシニコフで敵を撃つ。
敵には茂みや岩影に隠れられ、応戦される。
廃墟の壁に建材の砂煙と共に、列をなした弾痕が描かれる。
中で待機していた笹木の部下達も加わり、四方八方に弾をばらまく。
廃墟の内部中央では、携帯式の迫撃砲を持った者がおり、壁向こうへ間接攻撃する。
迫撃砲の間接攻撃は八方に迫撃砲弾を降らせ、物陰に隠れている敵を殲滅する。
笹木も肩から掛けていたM79グレネードランチャーを使って敵を殲滅する。
撃っては装填を繰り返す。
しかし、それでも敵からの弾の雨はやまず、仲間が5~6人撃たれてしまう。
それどころか暗闇の奥から二つの光が現れたと思うと、歩兵戦車が現れた。歩兵戦車は73㍉砲を使って廃墟を攻撃。廃墟の一部が崩落し、何人か瓦礫や砲弾の爆発で死亡する。
それは砲撃しながら此方へ近づいて来る。
廃墟の外壁も部下の人数も確実に削られてゆく。
笹木はここを離れる事を考えたが、周囲はぬかるんでいるのでトラックでの移動はほぼ不可能だ。
歩兵戦車が再度砲撃すると、笹木は閃いた。「アレしか無い。」
笹木は階段を使わずに三階から二階へ、そして二階から下へ飛び降り、携帯迫撃砲を撃ってる味方へ八方に砲撃するのを辞めさせ、戦車の後ろで列を成す歩兵を砲撃するように命令した。
同じようにライフルグレネードやグレネードランチャーを撃ってる部下にもまた同じ命令をする。
命令する度に「戦車を攻撃しないでどうする」と、言われたが、共通して同じことを言う。
「あの戦車をぶん盗る。」
廃墟の目と鼻の先まで戦車がきたら合図とと同時に飛び掛かる様に言う。
あの戦車のハッチは3つ。
戦車から向かって左。車体二つのハッチが縦に並んでおり、戦車長と操縦士がいる。
もう一つのハッチは砲搭に一つあり、ここには装填手兼砲手がいる。
そのハッチの施錠を拳銃で破壊しこじ開け、塔乗員を射殺した後に乗っ取る。
戦車が廃墟の目と鼻の先まで来ると、笹木を含めた6人が全員廃墟から飛び出し、戦車に群がった。戦車の後ろから来る敵兵に何人か撃たれたが笹木が.45口径弾のオートマチックでハッチの鍵を破壊し、もう一人が蓋をどかし、拳銃やカービン銃で乗員を射殺し、戦車から引きずり出す。
乗っ取った戦車の後ろから敵が何人も迫るが、部下達の機銃掃射で寄せ付けない。
笹木は車長室、もう一人は操縦室、また一人は砲塔。縫をはじめ他7人は後部兵員室に入った。
もう一両戦車がやって来たが、笹木達の乗る戦車の73㎜砲に撃破された。
それ以外は歩兵や機銃しか積んでない装甲車だったため、それらは容易に蹴散らせた。
ある敵兵は主砲で吹き飛び、またある敵兵は同軸機関銃に倒れる。
それでも敵から銃撃を受けるが、なんとか逃げおおせる。
戦車は泥濘を越えて行く。
長いこと戦車を走らせていると、いつの間にか夜が明けていた。
笹木は先程の戦闘で砲弾を完全に消耗した事も含め、目立つと判断した為、戦車を捨てて歩くことにする。
広い荒地。休憩しては移動しを繰り返す。
休憩中、縫は笹木に聞く。
「ずっと疑問だったのですが・・・・どうして革命に志願しようと・・・?」
今まで、手厳しく接されたので、あまり聞けなかった事だ。
疲れに疲れた笹木は今までの手厳しく接していた時とは違い、優しく口を開ける。
彼は元々、東北州にある動物園に居たホワイトタイガーだった。
その動物園が閉園すると、サンドスター反応装置のある、「工場」と呼ばれる施設に入れられる。
今まで動物の殺処分をしていた施設は、サンドスターの発見により、全てこの工場に置き換えられている。
縫が生まれたのもここだ。
五十音で名前を決める工場で生まれたので、笹木という名字の人間として人間社会に送られた。
資本主義の闇を感じ、共産主義に走ったきっかけは、資本行政地区に居場所を移してからであった。
職についたが、その場所は法の裏を掻い潜りながら、フレンズを見下して過酷で低賃金の労働を強いていた。
フレンズのくせして真面目に働いていた彼に、高い金を支払う事が善く思わなかったのか、仕事の結果の粗捜しをし、それを指摘し、それを理由に昇給を拒んだり、フレンズになら何をしてもいいという風に受け取れてしまうような発言をしたり、あからさまに彼を安く働く便利な労働力として見ていた節もあった。
歳をとった人間達は口々に「世の中はそんなものだ」と言うが、彼にしてみれば、「その世の中とやらを無関心な気持ちで尚且その場しのぎで構築していったのは何処の誰だ」と言いたくなる。
ベーシックインカムの導入により、仕事を辞めても路頭に迷う事はなかったが、仕事による収入を失った彼には、こんな制度はただ日本中の一握りの資本家が提供するサービスや商品を買わせる為にやってる様にしか思えなかった。
テレビやネットでは、日本やその他国や地域でのベーシックインカムの導入は社会・共産主義思想の夢が実現されたにも関わらず、何ゆえ暴力革命を行うのかと疑問視する声があったが、笹木の様な境遇や、考え方の者は、AIやロボットの技術が進む中で、資本家と労働者の二極化を広げただけだと解釈していた。
カシミールへ行く数日前、講演会に参加した。社会行政地区が偽りの社会主義を作り上げている事、ベーシックインカムで、如何に資本家が得し、如何に労働者が損をするのか等、笹木の思想と共鳴するものがあり、彼には世界を暴力によって変えてやるという意識、イヤ、意欲や大義名分が芽生えた。
「滑稽だよな。白い動物が、赤い考えを持つなんて。」
そして、彼らは寝て、日が登り、また同じ様に起床する。
その最中、敵の無人航空機に、彼らが発見されているのは誰も知る由もなかった。
皆で出発の準備をしていた笹木は何の気配を察知し、空を見上げると、「散れ!」と、叫ぶ。
空からレシプロエンジンの音がしたと思うと、空から爆弾が落ち、辺りで爆発が連発する。
何人かの仲間が吹き飛ばされるか爆弾の破片が刺さるなどして死んで行く。
「早く、ここを離れましょう!」
と、笹木の部下が叫ぶ。
爆撃した飛行機が戻ってきたかと思うと、銃撃をしてくる。
先程叫んだ部下がその銃弾に倒れる。
その頃、攻撃した航空機からの通報を受けて、戦車を主とした部隊が笹木と縫の元へ迫っていた。
笹木は叫ぶ。「みんな、無事か!?」
続けて辺りを見回すと、即死体が辺りに散らばっていた。
この中に、虫の寝息の味方がいた。下腹部から血を流し、とても助かりそうに無い。虫の寝息の彼は、笹木の方を見つめ、あと僅な体力を使って、手榴弾のピンを抜き、それを腹に押し当て、最後の力を振り絞ってうつ伏せになった。笹木は「止せ」と叫ぶが、彼の肉片が、爆音と共に飛び散った。
笹木は後悔する。
「どうせ全滅するんだったら・・・」と、後悔の念に苛まれた。
すると、笹木の後ろの地面が盛り上がったと思うと、土の中から縫が出てきた。
「縫!無事だったか!」笹木は喜んだ。
縫はヨロヨロと横っ腹を押さえている。
彼女は両膝をついたと思うと、そのままうつ伏せに倒れ込んだ。
さっきまであった笹木の笑顔が一瞬で消える。
うつ伏せに倒れた縫の背中に、爆弾の破片が刺さっていた。
「そうだ。」そういうと、懐から例の錠剤を取り出し、爆弾の破片を取り除くと、それを水筒の水と共に縫に飲ませた。
錠剤の中にあるサンドスターにより、この致命傷とも云えるこの傷が光と共に消える。
傷付いた皮膚や内臓が正常に再生された証拠だ。
「良かった。間に合った・・・・・。」笹木は安堵する。
縫いはそれを知らずに、縫いの口から出ていた血を拭い、自分の着ていた上着を仰向けに寝かせた縫にかけ、立ち上がる。
自分のホルスターにある拳銃の弾の残りを見ると、再びマガジンを本体に入れ、拳銃をホルスターにしまう。
元々、ホワイトタイガーのフレンズ。戦車隊が此方へ接近する音は聞こえている。
「縫、君の命は助かった。だから、死ぬなよ。」
笹木は途中で落ちていたFALを拾い、弾があるか確かめ、水を口に含んで錠剤を飲み、そして、トラのように戦車隊に向け、駆け出した。
笹木の眼前には戦車がキャタピラーとエンジンの音を合奏しているかの様に響かせながら大量の戦車がやってくる。
それでも彼は、向かった。
何のために闘うのかを忘れて。
完
カシミール地方 @sensyamen
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