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(なんだか夢を見てるみたいだなあ。今朝からずっとこんなフワフワした感じだ。卒業式かあ、今日でみんなとお別れだなんて全然実感わかないや。
高梨君とは結局何もなかったけど、いいんだもん。
私の気持ちは誰も知らない。友達にも言ったことないし、彼にも気付かれてない。
でもこれで終わりじゃないよ。第二ラウンドはまだまだこれから、高校に行ったら絶対にリベンジしてやるんだから。
うふふ、覚悟しろよータカナシィー……)
日差しがポカポカと温かい。本気で眠くなってきた。
(くぅ……)
「鈴木!」
「はひっ!」
突然名前を呼ばれて、奏は飛び起きた。
「違うんですせんせ……?」
ではなく、目の前に颯太が立っていた。
(え、なんで高梨君?)
「あ、あのさ!」
「ふぁい」
なんとか返事をしたものの、寝起きの頭がよく働かない。
「この後……、なんか予定ある?」
「えっ! べっ、別に」
「じゃあさ。い、一緒に帰らない……か?」
「えっ、うん。……うん???」
(ナニこれナニこれ、夢? 夢なの?)
「じゃあ、支度できたら」
「うん……」
まともに言葉を発することも出来ない奏に、颯太はワザとらしいくらいにぶっきら棒な口調でしゃべるだけしゃべって、自分の席へ戻って行った。
その背中を呆然と見送る奏であったが、次の瞬間ハッと気付いた。
(あっ! カラオケ!)
忘れてた、さっき約束したんだっけ。
慌てて桃花の方へ振り返ると、遠くの席から目を丸くしてこっちを見ている彼女とバッチリ目が合った。
どうやら今のやりとりを見ていたらしい。目を見開いたままグッと拳を握り、小さくガッツポーズを示してきた。
奏もつられて拳を握り締め、コクンと頷いて答える。
(ナニコレ?)
身支度、といっても大した荷物はない。卒業証書の入った筒をバッグに突っ込んで立ち上がる。
少し離れた席の颯太もほぼ同時に立ち上がった。奏に声を掛けるでもなく、でもチラリと目配せのような視線を飛ばしてからゆっくりと教室を出て行く。
奏も無言で席を発ち、あえて颯太とは別の出口を目指した。
周囲の喧騒は先程までと変わらず、級友達に最後の挨拶もせずに出て行こうとする二人に声を掛ける者もない。
だが奏は教室内に満ちる静電気のような緊張感と、背中に注がれる視線の集中砲火を感じずにはいられなかった。
(あっちゃー。
みんなの気遣いは嬉しいけど。あーあ、夜にはラインの嵐が待っているんだろうなあ。高梨のバカチンてば、あんなに大きな声で言うんだもん。
今更あんな澄ました顔したって手遅れだって、もう全員にバレバレだよ。せっかく今日まで誰にも気付かれずに来たっていうのに。
最後の最後で何をしてくれてんのよ、もおー!)
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