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―*―*―*―
式は滞りなく終了し、卒業生はいったん教室へと向かう。
途中、渡り廊下を吹き抜ける風に混じる仄かな花の香りに、思わず頬が緩む。
やっと冬が明けたばかり。まだ少し冷たい早春の風が、火照った頬に心地良かった。
―*―*―*―
教室に戻ると、担任から改めて一人一人に卒業証書が手渡された。
奏は自分の名前が呼ばれると大きな声で「はい!」と返事をし、教壇に向かった。
黒板には、おそらく担任が昨日のうちに書いたのだろう、カラフルなチョークで大きく描かれた『卒業おめでとう』の文字。
その周りには、生徒達が寄せ書きのように思い思いの言葉を書き連ねている。
『先生ありがとう』『お世話になりました』『みんな元気でね』『大好き!』
お世話になった恩師に。共に過ごした仲間達に。
ただ一言に精一杯の想いを込めて。
担任から
慣れ親しんだ毎日とは違うとても長く感じた最後の日も、終わってみるとあっけないものだ。
早々と帰り支度をする者、別れを惜しみ記念写真を撮る者、抱き合って泣いている者までいる。
奏はその騒めきを眺めながら、何とはなしに自分の机を撫で回していた。
(あーあ、この机ともお別れか。1年間お世話になりましたねえ、君を一緒に連れて行けないのが本当に残念だよ。うふふ……)
ペタリと顔を伏せ、慈しむように頬を押し当てる。冷たいような暖かいような不思議な感触にそっと目を閉じると、
「カナプン、何してんのー?」
そんな奏に、
「んー、机くんとのお別れを名残惜しんでいるんだよー。ねえねえモモチー、私、机くんと離れたくないよおー」
「あー、分かる。カナプンのお気に入りのベッドだったもんねー」
「授業中は大変お世話になりましたですー」
流石にここまで大胆な姿勢を取ったことはないが、授業中にしょっちゅう居眠りをしては教師に頭を叩かれていた奏である。
(いいんだもん、夜遅くまで受験勉強しているから昼間はお休みタイムなんだもん)
とは言い訳にしても雑すぎるが、それで本当に県内有数の進学校に合格してしまったのだからケチの付けようもない。
「それはそうとさー。この後みんなカラオケ行くって言ってるけど、カナプンどうする?」
「んー、行くー」
と、机に顔を伏せたまま。
「ん、分かった。じゃあまた後でね」
背中をポンと叩き、桃花が去る。奏は再び目を閉じ、教室を満たす喧騒にうっとりと耳を傾けた。
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