(24)それぞれの選択
「感想戦、する?」
「ええ。そうしたいのは山々なのですが──」
私の提案に、雫さんは視線を横に動かす。しゅーくんとあゆむ君の対局は、まだ続いていた。良かった、間に合ったようだ。
「……一緒に応援する?」
「ふっ、宜しいですよ。貴女には解説役が必要でしょうしね」
彼女はニヤリと笑った。
私達は園瀬修司ファンクラブの会員同士だ。第一号がどちらかで揉める所ではあるけど、しゅーくんを愛で──もとい、応援する気持ちに変わりは無い。
二人並んで、彼の傍に正座する。
「雫さん、あゆむ君を応援しなくて良いの? 仮にもチームメイトでしょ」
「これからは私は、私のやりたいように生きます」
小声で訊いてみるも、キッパリと言い切られてしまった。うわ、この人、清々しいまでに開き直っている。
だけどそうなると、あゆむ君を応援する人が誰も居なくなってしまう。
いや厳密には二名程居るんだけど、今頃は天上世界で絶賛対局中ときた。
うーん。少し可哀想な気がしてきたなあ。
「鬼籠野あゆむは修司さんの対局相手、私達にとっては共通の敵です。そんな奴に同情するなんて、ホントに甘ちゃんですね貴女は」
「だ、だって。あゆむ君はまだ中学生なんだよ? 可哀想じゃない?」
「なら、貴女は彼を応援すれば良い。私は修司さんの勝利のみを願います」
ぐ。また言い切られた。
雫さんにはもうチームとしての勝利なんてどうでも良くて、単にしゅーくんが勝ってくれればそれで良いんだ。
私も、そこまで割り切れれば良いのかもしれないけど。道場でしごかれた日々を思い出すと、どうしてもあゆむ君に冷たくできない。元はと言えば、離反したのは彼の方なんだけど。それでも。何か理由があったんだと思うし。
「二人とも応援する、じゃ駄目なのかな?」
葛藤の末に口から出た言葉は、自分でも情けないと感じる、何とも煮え切らないものだった。
案の定、雫さんには「悪手中の悪手」と鼻で笑われてしまう。
うう。でも私にとっては二人とも大切な存在だし、頑張って欲しいと思うんだよー。ああ、将棋に引き分けがあれば良いのに。
「ま、お好きにしたらどうですか? 貴女がどうであれ、私は私の好きにやるだけです」
プイと視線を逸らし、雫さんはそんな風に続ける。
……あ。今の台詞、あの人と同じだ。多分意識したものではないと思うけど。やっぱり、あの人の根幹は竜ヶ崎雫なんだ。
ありがとう。
そう言ってもらえると、気が楽になる。
私の好きなように──それなら。
しゅーくんとあゆむ君の中間地点、ちょうど盤の真横に座り直す。よし、これで公平に応援できる。
頑張って、二人とも。
勝っても負けても恨みっこなし。帰ったら肉じゃがパーティーだよ。
だから、どうか。精一杯、この一局を楽しんでね。
第十章・完
第十一章に、続く
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