人狼たちの戦場(16)

 GPFのアームドスキンが包囲する中を悠々と飛行したアレイグは、大通りをまたいで300m離れた支族会議堂の屋上に着地する。最も高くとも三階建ての議事堂は周囲を見まわすのに程よい場所だと判断したのだろう。


(あそこなら全方位をフォローしてレギュームを使えるんだ)

 デードリッテは機動砲架の特性からそう考える。


 八基のレギュームが周囲を睥睨するかのごとく浮いていて無闇に近付けない。離れての狙撃も防御フィールドが防いでしまう。背部にシシルを接続しているので、フィールドを過負荷で打ち消すほどの集中攻撃もできない。八方塞がりだ。


「あれか」

「ブルー!」

 画角内に青いアームドスキンが入ってくる。

「気を付けて。武器もそうだけどシシルがあそこに」

「薄汚い真似を。アゼルナンの風上にも置けん」

「言うか、め。お前の所為で何もかもが狂った。これから民族をまとめるのにどれだけ苦労すると思っている。蹂躙してみせるしかないではないか。まずはにえとなれ、存在してはならない者よ」


 中傷が青い瞳の狼を打つ。スレイオスは紳士の仮面などかなぐり捨てて、ただ勝つことしか考えていないようであった。


「お前になど誰もついていかん。それは俺の所為ではなく自分で蒔いた種」

 今のブレアリウスはその程度では揺るぎもしない。

「民族の在り方、信と義と協調を度外視して君臨しようとする者にアゼルナンをまとめることなどできるものか」

「一丁前の口をぉー!」

「言わせてもらう。これは父からアーフの名を託された俺の義務だ」


 三基のレギュームが跳ねる。レギ・ソードの正面から牽制しつつ背後を窺おうという機動。それに対し、人狼はバーストショットを浴びせて下がらせる。

 レギュームのリフレクタは本体を守ってくれるが反動までは殺してくれないようだ。連射に勢いに負けて照準を定められない。ベハルタムの癖を解析した照準パターンのお陰でもある。


(わたしも一緒に戦えてる)

 デードリッテの期待が高まる。


「く!」

「出し惜しみするな。それでは俺は墜とせんぞ」


 豪語したブレアリウスにさらに複数のレギュームが反応した。


   ◇      ◇      ◇


(これしかあるまい)

 正直、はったりだ。

(レギュームを一基ずつ潰す手もある。だが、すぐに覚られるだろう。そうすれば一気に仕掛けてくる。手詰まりになる)


 最初から機動砲架の撃破を目標とせず、ブレアリウス一人が引き受ければいい。そのうちに誰かがアレイグに接近戦を挑む。


(ベハルタムはレギュームの制御以上のことはできない。その証拠に見晴らしのいい場所に陣取って動かない)

 攻撃は全てレギューム任せ。

(防御フィールドは厄介だとはいえ、リフレクタのように物理防御力はない。フィールド内に侵入されてしまえば丸裸も同然)

 そう目算している。


「ディディー」

 回線を限定して呼びかける。

「レギュームはできるだけ引きつける。その間にアレイグを撃破させてくれ」

「うん」

「おそらくパワーもかなりある。接近するなら同時複数が望ましい」


 理系少女は了解して皆に段取りを伝えている。あとは彼がぎりぎりまで引きつける手順。


(多少削られるくらいはいい。奴から引き剥がす)

 アレイグ本体から距離を稼げればベスト。

(神経を研ぎ澄ませろ。レギ・ソードの全力を引き出すんだ)


 輪環型σシグマ・ルーンを意識する。むしろ存在を感じないほど融合するのが正しい。機体同調器シンクロンの感応深度を限界まで引きあげる。

 センサー情報の流入量が跳ねあがっていく。彼はあるがままに受け止める。まるで周囲全てが感知できるかのように思えてくる。過熱しそうになる頭を可能な限り冷ましておく。


(来い)


 姿勢制御噴射機パルスジェットをも手足のように操る。背後にまわったレギュームが回転してレギ・ソードへと指向するのが分かる。機体を後ろへ押しだす感覚で近付ける。瞬時に転回して下からなで斬りをみまう。咄嗟にリフレクタを展開するが、自重の軽い砲架は反動で上を向く。


(いけるか?)

 つい欲を出して砲口を向ける。

(駄目か。無理のしどころじゃない)


 別の一基が真横に来ている。首も動かさずにトリプルランチャーだけ向けてトリガー。バーストショットで偏向させた。


(まだだ。もっと来い)

 軽く路面を蹴りつつ後退。

(全部来ないと傷一つつけられないと思わせろ)


 レギュームの制御圏内を計るように円弧を描く。アレイグから離れすぎてもいけない。ブレードとバーストショットを駆使して引きつける。ぎりぎりの均衡を保つように。


(六基か)

 彼を追うのはそれだけ。

(だが隙は作れているはず)


 友軍機が総がかりで牽制してレギュームを釘付けにしている。アレイグにも砲撃をくわえて目くらましもかける。その間にロレフのレギ・ファングが巨体の背後へと接近していた。


「これで終わりにしてくれよ」

「甘いな」

 スレイオスの声。

「こんなものだと思うなよ」

「はぁ!?」

「終わるのは貴様だ」


 アレイグが意外にも機敏に機体を横滑りさせたかと思うと、ロレフ機を照準しているレギュームの先端が開く。切り欠きが現れたかと思うと、そこから十字砲火クロスファイアが放たれた。

 反射的にリフレクタを突きだすレギ・ファングだが、すり抜けたビームが頭部と左足を吹きとばす。受けたビームの反動でロレフも大きく後退させられていた。


「な……に!?」


 今までに見られなかったレギュームの機能にブレアリウスは驚愕した。

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