反骨の行方(8)
オポンジオの背部から離れた円錐状の機器はパルスジェットを噴射して姿勢制御する。先端をレギ・ソードに向けたかと思うとビームを発射した。
(ランチャーなのか!)
咄嗟にブレードグリップのリフレクタを作動させて受ける。すぐさま応射したが機敏な機動で回避されている。
『あれはレギュームと名付けられた機動砲架です』
シシルが説明してくれる。
『少し前に設計図を奪われてしまいましたの。実用化は微妙なところかと思っていましたが投入してきましたね』
「ターゲット捕捉の自動式か?」
『いえ、パイロットの制御下にあります』
だとすると自由度は高い。
「厄介だな」
『動作パターン解析は難しいと思って』
戦闘艦艇の砲架のように
『つまり本体を撃破すれば無力化は可能でしてよ』
「無茶を言うな」
真っ先に考えた。
「オポンジオがあなたの身体を持っている。無造作な狙撃などできん」
『片手がふさがっている今こそ撃破の好機なんですのにね』
「嫌なものは嫌だ」
頑強に拒否する。当然だ。球体の外殻がわずかでも破損すればシシルは永遠に失われてしまうだろう。
(どうにも難しい)
右腕でシシルを抱えたオポンジオは左腕にビームランチャーを構える。ブレードが使えないので接近戦は仕掛けてこない。中間距離でレギューム二基を使用しながら本体でも狙撃をくわえてきている。
「くっ!」
一基の狙撃を躱したと思ったらもう一基の射線に捕らわれている。強引に機体を振りまわすと正面に
突きを削って横に逸らし、そのまま肘を入れる。ハッチを歪ませるほどの衝撃をくわえたらパイロットは脳を揺すられ機体は流れる。胸部にビームを見舞ったかと思えば、死角からレギュームの一撃に襲われた。
(このままでは持たん)
あれが自動砲架なら
「弱点はないのか?」
唸るように言う。
『レーザースキャンを打ちましてよ。見て。有線式ですわ』
「繋がっているんだな」
『ええ、ケーブルを切断すればレギュームは無効化できますわ』
投影コンソールの位置にレギュームの立体映像が浮かぶ。拡大された像の後端、砲架の最も太くなっている部分の中央からワイヤーらしきものが伸びている。それで遠隔操作しているようだ。
「目視は厳しい」
『黒く彩色されているものね』
見て分かる物なら最初から気付いている。レーザースキャンまで使わなければ確認できなかったということはそういうこと。
もう一度、目を走らせてみるが視認できない。かなり接近すれば可能かもしれないと狼は思う。
(が、そうもさせてくれん)
包囲は解けていない。かなり減らしたものの、アルガスとボルゲンが二十機以上は付近にいる。狙撃や斬撃を躱しつつオポンジオにも対処せねばならない。
「これほどの好機を!」
「逃すんじゃないわよ!」
「へいへい、やっちまいな!」
声が重なる。
「メイリー! エンリコも」
「来たよん。あれだろ? さっさとお姫様を取りかえさないとね」
「雑魚は任せなさい。あんたはオポンジオを」
僚機が来てくれた。
(恩に着る)
念じてレギ・ソードを加速させる。
行く手にはビームの網。弾きながら進む。気付くと背後にレギュームの影。勘だけで左腕を後ろに回してリフレクタを展開すると衝撃があった。
(それでもこれほど接近できたのは進展。背後からの狙撃を受けるほど近付いている)
オポンジオが抱えている球体がはっきりと見える。ずっとずっと追い求め、必ず取り返すと誓ったシシルの身体が。
「るおぅ!」
見極めたつもりでブレードを振るが何も起きない。
「延長線上でも無理なのか」
『レギュームは個々に機動するの。ケーブルは常に棚引いていてよ。逆にいうと、意図的に延長線上に置かないような機動パターンで制御されているんですわ』
「いちいちレーザースキャンで確認するわけにもいかん」
視認に代わる方法を模索する。
『常時レーザースキャンをモニターに反映させるのは可能ですけど、処理のタイムラグがどうしても現状位置を示していませんわ。目処くらいにしかなりません』
「やってくれ」
『お待ちなさい』
スキャン結果の模像がモニターに表示される。意識的に輪郭線だけで編まれた像はケーブルの現在位置どころか、オポンジオやレギュームの現在位置ともずれが生じていた。
(無いよりマシという程度)
「パターン8でセット」
トリプルランチャーをランダムショットに切り替える。
「狙う」
オポンジオとレギュームの相対位置の変化から勘でケーブルを狙撃する。しかし、ビームは虚しくも何もない空間を貫いていくだけ。
「無駄をする」
平板な声はベハルタムのもの。
「できることはやる」
「足掻いているうちに墜とす」
(悪足掻きと言われても仕方ない。雪原にこぼした豆を拾い集めるようなものか)
あまりにも広い宇宙空間だと、直径で50mmはあろうかというケーブルでも見えないものは見えない。襲いくる狙撃の射線を回避しつつ勘だけで行う反撃は虚しくも感じてくる。
(このままではシシルを取り返せん)
ブレアリウスは焦燥を募らせていった。
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