反骨の行方(4)
「えっとさ、ウルフ、悪かった。僕もペルトカを沈める気なんてなかったんだ」
「あれに乗ってたのが親父さんだとは聞いてたし、アゼルナ部隊の戦列を崩すのにそこまでする必要はないって思ってたのさ。本当だぜ」
「謝罪は不要だ。父も俺もあんたも軍人としてあそこにいた」
恨みつらみを抱いても不毛だと伝えたかった。
「いやー、そう言ってくれると助かる。寝覚めが悪くってさ。戦隊長も、アーフ軍司令が戦闘の泥沼化を抑止してくれていたって言ってたし、どうもやらかしちゃった感がすごくてね」
「結果が全てだ」
「まあね。勝利が今回の停戦協議のきっかけになったのも事実だろう」
胸のつかえが下りたらしい美形パイロットは破顔する。いたたまれなくなって自分の待機時間が終わったというのに残って彼らを待っていたようだ。
「ふぅー、すっきりした。なんせ君も僕も護衛部隊に入ってるだろう? 気まずいまんまじゃやりきれない」
「ちょいちょい、トップパイロット殿。まるでうちのブレ君がどさくさ紛れに後ろから撃つみたいな言い方よしてくんない?」
エンリコが片眉をあげて言う。
「まさか! 欠片も思ってないって。ましてやただの護衛任務だぜ。基本的には戦闘は無し。どさくさ紛れもなにもないじゃん」
「そだけどさ」
「心配無用だわ。うちの狼はそのへんきっちり割り切ってるタイプだから」
メイリーもフォローを入れる。
「待機明けでしょ? さっさと休みなさい。疲れた顔させてたら、あんたのファンの
「そうするさ。この待機任務だって意味あるんだかないんだかみたいな感じになっちゃったしね」
ロレフは清々した顔で背中を向けた。本当に気に病んでいたらしい。
(しまったな。俺が泣いていたのを見られたばかりに、こんなとこまで余波が行ってるか)
後悔にさいなまれる。
「恥ずかしがらなくたっていいじゃないのさ」
「ん?」
「仔狼ちゃんが頭抱えて伏せてるわよ」
もれてしまった内心に、ブレアリウスは余計に恥ずかしくなってしまった。
◇ ◇ ◇
一週間の時が過ぎ、停戦協議の日がやってきた。
司令官のサムエルは副司令のウィーブに艦隊を任せ、タデーラをともなってジーレス1番機で協議場所となるアゼルナ戦艦オルクコへと向かう段取り。
「では、あとはお願いします」
「了解いたしました」
壮年の士官は敬礼で送る姿勢。
「機甲隊員の護衛は十分に付けますが、一応お気を付けて。相手方からの申し入れ、本艦での協議が順当ではあるのですが」
「仕方ありません。あちらは協議が成立すればその場でゴート遺跡の本体を引き渡すと言ってきています。移送の問題もありますし、そこまで譲歩するならこちらも譲るべきところはあるでしょう」
「理屈は解るのですが、どうにも腑に落ちなくて」
不安が募る気持ちも当然だとは思う。彼とて普通ならそんな条件は受けない。
(ですが、全ての焦点であるシシルという重要極まりない人質を取りもどす絶好の機会なのですよ。それさえ済んでしまえば話はシンプルになります。ここは逃せませんね)
サムエルは多少の譲歩をしてでも協議をまとめる構えである。
「タデーラ、司令を頼む。目配りを忘れないように」
「はい!」
ウィーブは自分なら一番傍近くで守れると思っているようだ。たしかに彼女では心許ないかもしれないが、首脳陣二人がそろって艦隊を留守にするわけにはいかない。
「待っていてください。その代わりといってはなんですが、最強のパイロット陣は引き抜いていかせてもらいますから」
「そのあたりは心配していないのですが」
ロレフを中心としたエース編隊を複数にブレアリウスのいるメイリー編隊も連れていく。戦力的に不足はない。
見送りを受けてジーレスに移乗したサムエルは操縦席中央の指揮官シートに座る。一緒に移乗してきた各編隊の担当
「本物を連れてきてくれるのを願うばかりですが」
彼とてゴート遺跡の本体を知らない。偽物を掴まされる可能性もある。
『ええ、わたくしはあそこにいますよ』
「っと、確認できるのは助かりますね」
シートの横には彼と同じ金髪の美女。人狼の連れている二頭身アバターでなく、人類に頭身を合わせた姿だ。各所から溜息がもれるのが分かる。
『あいかわらず何一つ接続してくださいませんけども、移動しているのは間違いありませんわ』
慣性を感じるという。
「時期を合わせて移動している可能性もありますが、ここで嘘をついてもあまり意味はない。本物だと考えるほうが合理性がありますね」
『同じ意見でしてよ。テネルメアが通告してきたとおり、直径5mの球体ですわ。ジーレスのカーゴルームにも係留できます』
「ご不便をかけますが、丁重におもてなしさせていただきますので今しばらくのご辛抱を」
美女はにっこりと笑う。
『お願いしますね』
「あまり機会がありませんが、一応はエスコートマナーも心得ておりますので」
軽口に手を口元に当てて笑うシシルにサムエルは一礼した。
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