名の誇り(13)

 一点突破を仕掛けたロレフのレギ・ファングは、彼の編隊を含めた三個編隊十機が敵右翼陣の裏側に抜けていた。


(抜けたはいいけど、後背からとはいえこの数で攻撃は無謀なんだけど)

 振りをするだけでも躍起になって追われそうだ。


 幸い、中央方向に抜けたので敵右翼次陣は遠いし、先陣の補充と補給で数を減らしている。直近の脅威にはならないと思える。


(要はアゼルナ軍に動揺を与えればいいんだけど……)

 少し遠いが艦隊が見える。

(あれが一番手っ取り早い気がしてきた)


 随伴機に一斉通信で目標を伝える。目指すはアゼルナ軍艦隊、と。


(司令部の指示を仰ぎたいけど、ここまで中継子機リレーユニットがついてきてないから繋がんないんだよね)

 割り切るしかない。

(効率のいい方法を選ぶさ。文句はウルフに言ってくれってね)


 追撃を受けないうちに最大加速、艦隊へと距離を詰めていく。四連装砲塔が絶え間なくビームを吐きだし、弾幕を張って接近を阻もうとしている。しかし、ほぼ自動化された艦砲は、映像ロックオンで狙ってくるだけ。アームドスキンの機動力の敵ではない。


「よっほー! どでかい的だ!」

「防御フィールド内に入れば沈め放題ね」

「大将、直掩よろしく」


(好き勝手言ってくれるじゃん。あとで憶えてろ?)

 とは思うが、直掩に付いているボルゲンではレギ・ファングを止めるのも無理だろう。


 ロレフは推進光の尾を引いて迫る直掩機の群れに対峙した。


   ◇      ◇      ◇


「ぐ!」

 ベハルタムの注意が逸れた。

「く、今日は間違えられない」


(どうした? 露骨な隙だぞ)

 ブレアリウスは不審に思う。


 見逃すわけにもいかず狙撃してみたが瞬発力だけで躱された。次の攻撃を読もうとするも、明らかに注意が向いていない。かと思うと一瞬に反転して飛び去る。


(なんだ?)

 呆気にとられる。


 ロレフに裏を突いてもらう要請はしたが姿は見えない。敵右翼も大きく乱れた様子はない。


「敵が反転した。何かあったか?」

「ロレフさんたちがアゼルナ艦隊に向かったって。どうなってるかは、こっちじゃ確認できないの」


(艦隊? 母艦を狙ったのか)

 大胆だが有効だとは思う。

(救援要請があったか。だとすれば、どうする?)


 メイリーたちと合流し、浮足立つ敵部隊を攻撃するのが最も損害を強いることができよう。だが、肝心のロレフたちが敵中に孤立する。


(全ては戻らないはずだ。が、ベハルタムを戻すのはマズい。足留めされれば確実に孤立する)

 迷っている暇はない。ブレアリウスは後を追う。


 出遅れた感は否めない。オポンジオの抜けた穴を埋めるように集まるアームドスキンを撃破なり牽制なりしながら追うも距離は離される一方。


(間に合うか?)


 ブレアリウスはレギ・ソードを限界まで駆けさせた。


   ◇      ◇      ◇


 直掩を撃破したロレフは周囲を見まわす。散った随伴機はすでに戦闘艦にかなりのダメージを与えてまわっていた。爆沈の巨大な光球もいくつか広がる。


(おーい、やりすぎだ。ほどほどにしとかないと敵を呼ぶぞ)

 危機感に上がった体温を検知してフィットスキンの体温管理装置が唸りはじめた。


「全機戻れ。それくらいで十分だって」

 慌てて艦隊内に侵入し、友軍機に呼びかける。

「えー、いいとこだったのに」

「もうちょっと稼がせてくれよ、大将」

「ばか。命を惜しめよ。刺激が過ぎると救援の数が増えるだろうが」


 クレームが殺到するが聞いていられない。彼は僚機を搔き集めてまわらないといけなくなった。


「へい、大物だ! 沈め!」

「ばかやろう!」


 一機が不用意に大型艦に接近しようとしている。しかし、艦底から予備機が発進して影から狙っているのに気付いていない。

 慌てたロレフは形振りかまわず連射する。なんとか一射が胸部を捉えて沈黙させた。しかし流れ弾が艦尾にも直撃する。推進機が爆炎を放った。


(ヤっバい。この位置で推進機をやってしまったか。まあ、パルスジェットで立て直すだろう)

 冷や汗をかく。


 艦隊がいるのは静止軌道。推進機無しでは離脱は難しくなるかもしれないが落下はすまいと思う。


「マズいよ、ロレフ!」

「なに!?」


 真上の戦闘艦が各所から爆炎を吐きはじめた。ダメージが機関部に及んでいたようだ。艦体そのものが膨れあがると、巨大な光球が生まれる。


「だあ!」

「ひっ!」


 各機がリフレクタを展開して爆炎を防いでいる。大型艦の防御フィールドも作用して、最低限の損害で済んでいた。ただし、艦は軌道を離れて落下を始めてしまう。


「おいおいおい! 落ちるのかよ!」

「え、マジで?」

「どうすんだよ!」


 戦艦にはアームドスキンのように反重力端子グラビノッツは搭載されていない。自力で離脱するしかないが、それに必要なメインスラスターを彼が破壊してしまっている。


「く、沈めるか」

 万が一にも地表に落とすよりマシだ。

「それ以上はやらせない!」

「なに!?」


 飛来したのはオポンジオ。白い狼が帰ってきた。


「ちょ、待て! 今は!」

「待てない。スレイオスを怒らせる」


 切迫感が腕を鈍らせる。GPFパイロットが戦闘艦を地表に落として民間人に多大な被害を出せば大問題になる。


「下がれ!」

「くおぁ!」


 友軍機が一機両断された。腹部を薙がれたゼクトロンが誘爆する。


「このやろう!」

「やるぞ! 囲め!」


 オポンジオに攻撃が集中するが巧みに躱される。また一機右腕を刎ねられた。


(こいつを自由にさせたらもっと被害が出る)

 戦艦のほうも気になるが友軍機を見捨てられない。

(通信が使えないこんなときに)


「くそっ! 繋がれよ!」

「……レフ、聞こ……。ねぇ……」

「繋がった! 緊急事態だ! 戦艦が地表に落ちる! 誰か沈めてくれ! ポイントデータと画像送る!」


 ロレフは大急ぎで必要データを送った。

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