名の誇り(12)
(乗り手が違うとこうも違うか)
ブレアリウスは苦々しく感じる。
アルディウス操るオポンジオを撃破した彼だが、ベハルタムの駆る機体は段違いの動きを見せる。手に負えないというほどではない。動きは直線的で読みやすいともいえる。
ただし、加速は比較にならない。よくも
「よくついてくる」
「自由にはさせん」
右翼戦線は完全に混戦模様。敵中央が乱入してくるまでは整然とした戦列が組まれていたのに、混成部隊がくわわることで秩序は失われてしまった。
「こっちの台詞」
「付きあってもらう」
メイリーとエンリコは途中からついてこられなくなってしまった。今はベハルタムのオポンジオとブレアリウスのレギ・ソードの一騎打ちになっている。
かと言って戦闘宙域を離れたのでもなく、両軍入り乱れる中を縫いながらの戦闘。状況は難しくなっている。
「メイリーたちの位置、把握しておいてくれ」
「大丈夫」
返事はデードリッテのもの。
「ユーリンの卓と繋げたからいつでも誘導できるもん。ブルーの担当はわたし」
「ありがとう。余計な仕事をさせる」
「気にしないで。戦場なんだから何があるか分からないし」
機体を後転させながらオポンジオのシンボルに
転進して躱していたベハルタムを背面に確認すると振り向きざまの斬撃。ブレード同士が噛みあって紫電を散らす。上がってくる砲口に膝を添わせて横に弾く。
「壊れてるのか?」
「お互い様だ」
機動しながら体術じみた駆動を行うレギ・ソードを異様に思ったのだろう。彼にすればそう珍しいことではない。以前から無茶な機動をしつつ砲撃戦をやっていたのだ。それに白兵戦がくわわっただけのこと。
「面白い」
「俺には戦闘を楽しむ趣味はない」
普段はろくにしゃべらなかった癖に、意外に口数を重ねるベハルタムに驚く。バトルハイの気があるのかもしれない。
重ねたブレードから力場の軋みが伝わってくる。独特の音を連ねながら二機は絡み合って飛んでいた。
オポンジオの大径砲を左のリフレクタで斜めに逸らしながら間合いを詰めれば反動で右にずれる。こちらの三点バーストを下に躱すベハルタム。そこへ腰だめの突きを放りこんだ。
(頃合いだな)
センサー情報だけで周囲を把握。
「ディディー、ロレフに繋げられるか?」
「待って。頼んでみる」
「繋げるよ」
「なんだい、ウルフ?」
「そっちは落ち着いてきてるはずだ」
応答する時点でゆとりがある。
「まあね。右翼陣は繁盛しているじゃないか」
「撃墜数を稼ぎに来い、とは言わん。今のうちに裏に抜けてくれ」
「なんだって?」
声音に不審の色が宿る。唐突すぎるのだから当然だろう。
「裏に回って、この膠着状態を崩してくれ」
ブレアリウスは想定した作戦の最終段階をロレフ・リットニーに任せる気だった。
◇ ◇ ◇
(裏に回れ? 敵右翼を突破しろって言う?)
打ち合わせもなかった要請にロレフは驚いていた。
それどころか一個人の頼み。聞く義理はない。が、内容は頷けるものなので無下にもできない。
(それであの狼は敵中央を挑発するような真似をしたってのかい? 厄介な専用機まで引き受けてくれて)
筋が通ってしまう。
現実に左翼陣は落ち着きを取りもどしている。一時は押し込まれ気味だったが盛り返していた。
「簡単に言ってくれるなよ。こっちだって暇してるわけじゃないんだぜ?」
「理解している」
狼は淡々とした口調。
「それを承知で頼んでいる。今やらねば崩す機はない」
「たしかにね」
「ロレフ」
彼の
「やって」
「はぁ?」
「無理してでもやって。司令官が賛同してる」
聞かれていたらしい。それはもう賛同ではなく命令だ。背筋が冷たくなったのに脇汗だけが増えている。
「了解だ」
「ごめん」
シルバーブロンドのナビオペが拝んでいる姿が目に浮かぶ。
「ってことで悪いけど張り切ってくれないか?」
「しゃーねーなぁ」
「ギャラ、はずんでもらわないとね」
僚機の軽口に彼は「頼んでおくさ」と答える。
(つっても、蓋を開けてみないと分からないぜ)
苦い思いが募る。
(メイリーチームと違って、こちとら司令官閣下と親しいわけじゃないんだ。無理を言うときはメグ姐さんを通してるんだから)
マーガレットはロレフを見込んで融通を利かせてくれるが、サムエルはどちらかというと怖ろしい。
「んじゃ、いっちょやってみますかね」
「頑張ってね」
「他人事みたいに言うな!」
(さて、じゃあ今回のヒーローは僕がいただくが悪く思うなよ、ウルフ)
ロレフは気合い一番、レギ・ファングを加速させた。
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