名の誇り(11)
再発進したブレアリウスから見て戦線は維持されている。キーウェラ戦隊長は左翼に量、彼らのいた右翼に質の戦力を送りこんで維持を画し、それは成功している。
「シシル、集積中の情報にオポンジオらしきものはいるか?」
『確認できませんわ』
ベハルタムの情報はなく、統合前のデータにも姿が見えない。
「粘って突破しようとしたが限界がきて補給に戻ったか」
『ええ、後退は統合情報の通りですよ』
「釣る。機動操作を編隊リンクへ」
自機の進路を操作情報から僚機に反映させる。メイリーのレギ・ファングとエンリコのゼクトロンのナビスフィアにはレギ・ソードの機動方向も表示されるようになる。
「っと、ブルー、抜ける気?」
「中央を動かす。邪魔だ」
「へいへい、豪気だね」
「ちょっと重いけど、たしかにあそこに控えてられると不気味よね」
両翼先陣を戦線として次陣から暫時投入されているが、中央の六百はほぼ動いていない。一部のアームドスキン、オポンジオなどがロレフ機を抑えるために投入された程度。
「なんとか切り崩してこれからって時にもう一枚壁を作られると、その頃にはまた補給が必要。そんなことしてたらリセットされるようなもんだわ」
「あれを戦線に引き込んでおきたいわけかい、ブレ君。確かに中陣戦力が補給に戻らないですむ今のうちだね」
(それもあるが……)
今後のためでもある。しかし、彼には目算もある。
戦列の下を抜ける。現在の戦場設定だと惑星アゼルナ寄り。少し加速すれば静止軌道も抜けるあたり。
高度としては地表から四万kmほど。積雪で薄緑色に染まる大地が足下を圧するほどに広がっている。メイリー編隊はそこを舐めるように飛んだ。
(さっさと見つけてくれ)
アームドスキン程度の質量だと重力場レーダーに紛れるのも可能だが、これほど大規模戦闘だと光学監視は逃れえない。早々に発見されると計算している。
『動きますわ』
敵右翼先陣から迎撃が出てくると同時に中央も突破阻止に動く。
「押されろ」
「よね? 一瞬、六百に正面からぶつかるとか言いだすかと思ったわ」
「無理むり、ぼくちゃん死んじゃうよー」
ひと言で通じる。
二人は彼が一撃くらいは当たりに行くと思っていたらしい。さすがにそれはない。下手をすれば包囲される。メイリーたちを死地に引き入れる気はない。
要は戦線の裏を突く、あるいは突破して母艦を狙うと思わせられればいい。反応した中央を右翼側に引っ張って叩く。それがブレアリウスの目算だ。
(ちっ!)
その目算は少しだけ外れる。中央の動きが早い。
「ちょいちょい、何か乱れてない?」
「荒っぽい進軍だねぇ」
阻止行動というより突進だ。
「シシル、紋章らしきものを識別できないか?」
『どうぞ』
「むぅ、混成部隊だ。性質が違うぞ」
望遠画像には様々な紋章が躍っている。支族の隊長機が多数混ざっているのが見てとれた。
「踏め」
「言われなくてもっ!」
逆進加速を強める。エンリコ機など完全に背中を向けていた。まさに尻尾を巻いて逃げる仕草。敵中央は余計に釣られている。
遠距離狙撃をリフレクタで受けつつ逆進をかける。バックウインドウには右翼陣の戦闘光の瞬きが近付きつつある。
「青」
「オポンジオか」
さらに輪をかけるように推進光をなびかせながら迫る敵機。豪壮なフォルムは白い狼のもの。
(ベハルタムまで釣れたか。まあいい)
ブレアリウスは一気に集中力を高めていった。
◇ ◇ ◇
「動いたか」
戦術パネル前でフェルドナンは呟く。
中央は彼の命令通り位置取りを変えずにいたが、突破を仕掛けてきたブレアリウス機らしきアームドスキンに反応して左翼側に攻撃を開始した。
「少し深追いだな」
定位置に戻る気配はない。
「それはご勘弁を。閣下の御命通り、GPFの特殊機の突出阻止をしたのですから」
「うむ」
「それに、あれらは両翼が激戦を繰り広げるのを匂いだけ嗅がされて耐えておったのです。多少はがっついてもお許しくだされ」
ジュゲスは直轄混成部隊のフォローをする。
陣容は様変わりし、向かって左翼側に偏りつつある。それがサムエルとかいう年若い司令官の意図するところだろうか。
「映像解析出せ」
引っ掛かりを覚えて命じる。
「中央が追撃した部隊だ」
「了解いたしました。サブパネル出します」
「これか」
報告にあった青いアームドスキンを含めた三機の姿がガンカメラの一つに映っている。一編隊だけで他の敵影はない。
(陽動としては不確実)
フェルドナンにはそう思える。
あの若い
(その男が、僅か三機で仕掛けに出るか? 本気で動かしたいなら最低でも二百は投入するはずだ)
それが引っ掛かりの正体。
「敵右翼、一部後退します。補給の模様」
補佐官の報告。
「ここでか」
「戦闘が長引いておりますれば。我が軍も随時補給を行っております。それは当初の計画通りでは?」
「そうだが、直轄部隊を振り分けに使えなくなった。敵軍とて補給で戦線維持の戦力にも欠くのに、わざわざ右翼は六百を引き受ける必要があったか?」
疑問に変わる。
「ううむ、たしかに」
「そうか。お前か、ブレアリウス」
フェルドナンは頭に浮かんだ閃きに口の端を笑みの形に歪ませた。
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