さすらう意思(5)

(レーザー回線はブルーを示してるのに、未確認機扱いなのはそういうこと)

 敵戦列の右側面から侵入するアームドスキンはレギ・ファングではない。

(同じレギタイプには見えるけど)


 最大望遠でシルエットに相似性が認められる。青いボディなのも同じなのだが細部に違いがある。同系統異機種に見えた。


(いったい何があってそうなったんだか)

 予想だにできない。

(一連の出来事は謎だらけ)

 それでもメイリーは深く関わり知識はあるほうだと思う。


 狼の機体が腰のラッチから何かを抜く。ナイフの刃を大きくしたような形状のそれは刃物ではないようだ。急接近に動揺するアゼルナ機へと向けられた。

 ビームが連続で放たれる。射線が一定でないのか、力場盾リフレクタを弾いた一射目を追った次弾が腰を粉砕し、次が肩を吹き飛ばす。一瞬にして爆炎へと変化した。


(三連装砲?)

 三点バーストショットが撃てるビームランチャーらしい。


 大破を量産していたブレアリウス機が近接距離に入る。右手のランチャーを格納した彼は、背中のパルススラスター上を滑って飛びだしたグリップを握る。ナックルガードが付いたブレードグリップだとすぐに分かった。

 我に返った敵機がビームを集中させるのに対し、グリップを前にかざして突き進む。無謀な試みに見えたがナックルガードにリフレクタが発生して全てを散乱させた。


(真新しい装備品ばっかり)

 彼女は理解する。

(一足飛びの技術が使われてるってことは、あれ絡みなわけね)

 ゴートの遺跡が噛んでなくては説明できない。


 グリップから半透過の黄光の剣身が形成される。以前より長大に見える刃は圧倒するかのごとき威圧感を放つ。現実には質量も切れ味も変わらない物でも相手に与えるプレッシャーが違うだろう。


 円を描いた切っ先が斜め下から跳ねあがる。迎えて掬い上げたボルゲンのブレードが横薙ぎへと変化する。その時には真っ向から縦一文字に斬りさげていた。


(速い。腕のほうの切れ味が増してるじゃない)


 横に跳ねた青い機体がすり抜けざまに胴を薙ぐ。力場の剣身が円弧を描くたびに敵アームドスキンのパーツが舞った。パルスジェットを瞬かせつつ通りすぎた先では誘爆の光が連鎖している。


「切り込むわよ、エンリコ。んで、合流する!」

 メイリーはペダルを蹴りつける。

「へいへい、メイリー編隊がやっと復活ってやつ」

「本領発揮ってやつよ」


 ブレアリウスに貫通されたアゼルナ軍は浮足立っている。反転攻撃のとき。GPFパイロットは一斉に気色ばんだ。

 砲撃の密度が増し、アゼルナ軍は押し戻される。戦列が乱れたところへ侵攻していく編隊も多数。全体で切り崩しに掛かった。


「ブラインド、撃て!」


 ボルゲンの斬撃をリフレクタの縁で滑らせ、横へ跳ねながら示唆する。エンリコが彼女の背中を狙ったビームが相手の胸部に風穴を開けた。

 照星レティクルも確認せずに勘だけで一射をくわえる。誘爆の光だけで命中を確信し、視線は接近してくる敵編隊から外さない。


(何あれ。気持ち悪い)


 四機が渦を巻くように円弧を描きながら迫ってくる。照準を合わせづらく、光学ロックオンに任せてトリガーを落とすも周回速度の変化で躱された。

 一機との交錯で突きが絡まる。互いに装甲を削りながらすり抜け、振り返りざまの一射。彼女のビームは当たらなかったが、抜けてくるのを予想していたらしい優男の一撃は直撃する。


「リーダー、後ろ!」

「くぅ!」


 バックウインドウに迫る光芒。機体を跳ねさせて反りかえりながら上下を反転。牽制の二連射が偶然にも大破させる。


(運に頼れるのもここまで!)


 残る二機は無茶な機動でロールするメイリーを標的にしている。牽制のビームが空間を埋める中を舞い、一機がブレードを振りかぶりつつ突進してくるのを認めた。


(厳しい!)

 すでに上下感覚は曖昧。方向を定めた回避ができない。戦闘が組み立てられない状態。


 彼女の機体の立て直し信号でゼクトロンはパルスジェットを噴射する。だが、間に合いそうにない。彼我の間合いは縮まるばかり。苦し紛れの斬撃を意識したところでビームが相手をさらっていった。


(エンリコのフォロー? 違う!)


 もう一機も腹から光刃を生やすと爆炎へと変ずる。薄まる光球の中に青白い双眸が輝きを発した。溶解した粉塵を振り払いながら青いアームドスキンが現れる。


「ただいま帰還した」

 低い声がメイリーの身体の芯まで響く。

「遅い!」

「すまん」

「リンク構築。さあさあ、やっちまおうぜ!」


 そこからは快進撃。彼女とエンリコはついていくだけでブレアリウスが中破させた敵機の処理が主になる。つまりはいつも通りのフォーメーションが復活した。

 青い背中は存在感を増して、頼りなさなど微塵も感じさせない。右手に大剣、左手に大刀を思わせるビームランチャー。闘神もかくやという風情を漂わせている。


(狼が帰ってきた。ひと回り成長して)

 喉の奥からこみ上げてくるものを飲み下して耐える。

(あたし、こんなにつらかったのね。吹っ切ったつもりだったのに)


 忙しさで誤魔化していただけだと気付いた。彼を残して逃げ帰ってしまった自分を心のどこかで責めつづけていたのだろう。抜け落ちていく感覚に捉われる。


(いけない。まだ戦闘中!)


 メイリーは自らを奮い立たせていかなくてはならなかった。

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