4-7 企み
インタビューは、隣の区のカフェで行われることになっている。そのまま帰っても良いと指示があったため、ツヨシは荷物を持って電車に乗った。
待ち合わせ場所に早めに到着したツヨシは、コーヒーを飲みながら資料に目を通していた。これから先、会社をどうしていきたいか。どういったゲームを作っていきたいか。など、当たり障りのない質問内容が並んでいる。
声をかけられたのは、約束の時間の五分前だった。
「すみません、お待たせしました」
ツヨシが顔を上げると、顔立ちの整った青年が立っていた。
髪を茶色く染めているが、チャラチャラした印象はない。目立つ上に高そうな青のスーツを着こなし、むしろ落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「お世話になっております。竜胆コウヤ様ですね?」
ツヨシは立ち上がって頭を下げる。
「はい。よろしくお願いします」
簡単な挨拶と名刺の交換を済ませ、レコーダーのスイッチを入れる。
こうして、インタビューが始まった。
ツヨシは鳥山に渡された資料通り、あらかじめ決められた質問を消化していった。時折、気になった箇所を突っ込んで質問することも忘れない。
竜胆もすらすらと淀みなく答えていく。返ってくるのは、雑誌に載せやすいようなコメントばかりだ。インタビュー慣れしていることは明らかだった。
一通りインタビュー終えてから、ツヨシは切り出した。
「実は私、宝泉寺カリンの友人なのですが……」
二十年以上会っていないが、友人ということにしておく。まったくの嘘ではない。
「宝泉寺さんのお嬢さんと?」
インタビューが終了し、レコーダーのスイッチも切ったのを見てか、竜胆はある程度砕けた口調になっていた。
「はい。竜胆様は彼女に結婚を申し込まれたとお聞きしました。これは別にインタビューとは関係ないんですけど……」
気を悪くされるかもしれないと思ったが、洗練された立ち振る舞いや話し方から漂う寛容な人間性からして、彼なら大丈夫だろうと考えた。
「ちょっと待って。それ、誰から聞いたんですか?」
彼は驚いて、わずかに身を乗り出す。やはり、まだ世間に知られてはいけないことなのだろうか。それとも、プライベートに踏み込み過ぎたか。
「あ、カリン本人から直接聞いたわけではないのですが……」
ツヨシは弁明するように言った。
「共通の友人に聞いてしまって。もちろん、誰にも言っていませんし、教えてくれた友人も私以外には言っていないそうです」
「いや、そうじゃなくて。俺は確かに彼女とは知り合いです。だけど、結婚を申し込んだなんて事実はありません。宝泉寺さんとその友人のどちらが嘘をついているのかはわからないけど……」
竜胆も少し混乱しているようだった。が、それでもしっかりとした口調で、淀みなく言葉を紡いでいく。
「そんな……」
ツヨシは呆然とする。
「気をつけた方がいいと思います」
竜胆は周りを気にしながら、声のボリュームを絞る。
「彼女は――宝泉寺カリンは、目的のためなら手段は選ばない、というのは大げさかもしれないけど、少しそういう狡猾なところがあるので。あまり知り合いの悪口は言いたくはないのですが」
ツヨシは必死で頭を回転させて、状況を処理しようとしていた。
この竜胆の話が嘘である、という可能性も考えられる。
仮にカリンの話が本当だとして、竜胆が嘘をつくことで、彼が求婚を断られたという事実を隠すことはできる。
しかし、ツヨシには彼が嘘をついているとは思えなかった。あくまで直感ではあるが。それに、インタビューをしてみて、彼がプライドのために嘘をつくような人間とも思えなかった。
カイトは昨日、最近ずっと誰かから見られている気がすると言っていた。その誰かというのは、カリンの雇った人間だったのかもしれない。それに、ツヨシも何度か、カイトといるときに、たしかに視線を感じたことを思い出す。
ということは……カリンは前からカイトの体質を知っていた可能性もある。
もし、そうだとしたら――カリンは二日前に初めてカイトの体質を知ったフリをしたことになる。そしておそらく、偽の結婚相手を連れていかなければならないという自分の嘘の境遇を持ち出すことにより、いかにもそれらしく結婚を申し込むというところまでシナリオ通りなのだろう。
複数の点が、一本の線になる感覚。
つまり、カリンは嘘をついてカイトを手に入れようとしている――という結論に至った。
事態は思ったよりも複雑らしい。
「本日はありがとうございました!」
ツヨシは竜胆に礼を言って、店を後にする。
突然様子が変わったツヨシに竜胆は驚いていたが、説明している暇はない。
早く、カイトに知らせなければ。
ツヨシはカフェを出てすぐに、カイトに電話をかけた。が、繋がらない。仕方なく、直接カリンの家へ向かうことにした。
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