2-4 魔法少女、合体する


「さ、カイトくん、早く未来のベストセラーの内容を聞かせてよ!」

 スミレが急かす。


「いや、でも……」

「もったいぶると、どんどんハードルが高くなると思うよ」

 アオイが真顔で言う。


「だそうだぞ。橘先生」

「ツヨシお前、覚えてろよ」

 四面楚歌のカイトは観念して話し出した。


「俺が今書いてるのは魔法少女ものだ」

 話し始めたカイトは、やはり気恥ずかしさがあるのか、酒を一口飲む。


「魔法少女?」

「ああ。魔法少女は五人いて、普段は普通の人間なんだけど、裏では悪人を懲らしめるヒーローなんだ」


「なるほど。お前にしては珍しい題材な気もするが、たまにはいいかもしれないな。それに、勧善懲悪の魔法少女ものはわかりやすくて読者受けもいい」

 とギターのツヨシ。


「だろだろ? 最初は主人公の平凡な女子高生、赤音あかねホムラがなんかそれっぽい生き物に不思議な力を与えられるところから始まるんだ」


「おぉ、それっぽい始まり方だ! 娘がいつも観てるアニメでもそんな感じだったかも!」

 とベースのアオイ。


「ただ、その力を一度使ってしまうと、もう普通の女子高生には戻れない。ホムラは絶対にその力を使わないことを心に決めたんだ」


「ほう」

 ツヨシが編集者の目になり、カイトの次の言葉を待つ。

 話し出す前の躊躇はどこかへ飛んでいってしまい、むしろ楽しくなってきて饒舌になるカイト。


「だけど、そのホムラの決意はあっけなく崩壊してしまう」

「なんでなんで? 何があったの? 続きは、続きはぁ? ね~え、はやくぅ」

 とドラム兼酔っ払いのスミレ。


「わかったわかった。これから話すよ。でも話していいのかこれ? 発売されてから読んでもらって驚いてくれた方が俺は嬉しいんだけどな」


「発売されるかどうかはまだわからんがな。まあ、最高傑作ということは、主人公の家族が酷い目にあって、その復讐のために力を使う、なんてどこにでもあるようなありきたりな展開じゃなく、きっと読者の予想を裏切るような誰も見たことのないストーリーが用意されているのだろう。非常に楽しみだ」


 と編集者のツヨシ。

 もちろん面白く書けるかどうかは作家次第だが、あえて厳しく言う。


「……そうか。どうやら俺の最高傑作は幻だったみたいだ。」

 ツヨシの予想は、どうやら考えていた展開そのままだったらしく、カイトは下を向いてしまう。そんなカイトを見て、爆笑するスミレとアオイ。


「ちなみに、続きはどうなるんだ? 念のために聞いておこうか」

 ツヨシが尋ねた。


「力を手に入れたホムラは、同じような境遇の仲間たちと出会い、五人で悪を打ち倒していくんだ。基本的に彼女たちの力は強く、物事のほとんど計画通りに進む。ただあるとき、強大な敵に立ち向かわなくてはならない時が訪れる」


 カイトはすらすらと話しているが、実はここから先はまったく考えておらず、即興で作ったストーリーだった。


「ああ。そこまできても何となく聞いたことのあるような話だな。で、どうやってその敵を倒すんだ?」


「それはだな」

 カイトはふふふ、と不敵な笑みを浮かべて、わざとらしく間を空ける。


 周りからはわざとらしく間を空けているように見えるのだが、実際はアイディアを全力で探している。


「……合体だ」

「合体⁉」

 アオイが驚いたように聞き返す。


「ああ。合体だ。もちろん、主人公のホムラは頭部を担当する」

 もうどうにでもなれ。カイトはやけくそになった。


「ちょっと待て。合体ってなんだ。そこはこう、力を合わせて~とかそういう流れだっただろ」

 ツヨシが口をはさむ。


「いや、五人が合体して大きな敵に立ち向かうの、格好いいだろ?」

「それはロボット戦隊ものじゃないか?」

 アルコールが入っているからか、ツヨシのツッコミはいつも以上にキレがいい。


「ああ、そうか! じゃあ魔法少女は実はロボットだったってことに――」

「却下だ!」


 いや、でも待てよ? 合体という概念は悪くないかもしれない。文字通り合体するのではなく、同調シンクロ共鳴ユニゾンという言葉を使えば……いけるかもしれない! いや……気のせいか? などと、ツヨシは心の中でひそかに考えていたが、アルコールのせいで冷静な判断ができていない。


「やっぱダメか~。このあとハッキング技術を持った敵に、合体した魔法少女たちの脳であるホムラが操られて大ピンチに陥るんだけど、最後は愛と友情パワーで復活してそれっぽく敵をぶっ倒すんだけどな~」

 カイトは、もはや自分でも何を言っているのかわからなかった。


「もうお前はバトルものを書くのは禁止だ。担当編集命令な」

 ツヨシもすっかりカイトが適当な発言をしていることを理解した。


 途中からは完全にアドリブで話していたのだろう。いや。最初から全部適当だった可能性もあるな……。などと考えながら、こんにゃくを口へ運ぶ。


「あははは。二人とも面白すぎ! もはやこのやり取りを小説にすればいいんじゃない?」

 スミレがそんな提案をする。


「なるほど。それは一理あるな」

 カイトは納得したようにうなずいたが、

「やめてくれ……。頼むから、な」

 と、切実な声色でツヨシが懇願した。


「ええ、なんでよ⁉ これはもう、他の出版社に別名義で持ち込むしかないね!」

「ああ、そうするか!」

 カイトとスミレはそんなことを言い出す。


「お前らも出演するんだぞ。いいのか?」

「私は別に大丈夫だよぉ」

「あたしも問題なし」

 スミレとアオイは笑いながら即答する。


「ほらなツヨシ。民主主義で俺の勝ちだ」

「わーい。勝った勝った~」

 カイトとスミレが肩を組んで勝利宣言をする。


「……」

「どうした、ツヨシ。眉間にしわなんか寄せて。そんなに俺が即興で考えた傑作がお気に召さなかったか?」


「いや、なんでもない。というかカイトお前、やっぱり全部適当だったのか!」

「あっ、やべ。バレた!」


「本物の作品はしっかりできているんだろうな!」

「もちろんだ。たぶんお前も驚くはずだから期待しておけ」

 カイトは調子よくそう言って、自身にあふれた笑みをこぼす。


「まったく……」

 ため息をつきながら、ツヨシは内心では苛立っていた。カイトが話した滅茶苦茶なプロットに対してではなく、スミレとカイトの仲の良い様子に、である。


 スミレは、学生時代からカイトに対して好意を持っている。周りは気づいていなかったかもしれないが、ツヨシは気づいていた。


 さっきは仕事が恋人だと言った。しかし半分は嘘である。仕事で忙しいのは本当だが、好意を寄せる相手はいる。


 しかも情けないことに、長い間片想いをしている。諦めることも、当たって砕けることもできないまま、時間だけが過ぎていた。


 ツヨシは今、その片思いの相手が別の異性と親しくしていることに対して苛立っているのだ。


 今もスミレは笑い転げる風を装いながら、カイトにさりげなくボディタッチをしている。

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