オーケストラ
勝利だギューちゃん
第1話
スズムシ、コオロギ、クチワムシ、マツムシ
秋になると、庭先や野原などで、オーケストラを行う。
彼らはナンパをしているのだが、そんなのことは関係ない。
毎年、彼らのオーケストラを聴くのを楽しみにしている。
でも・・・
だんだんと、そのオーケストラを聴く機会が減っている。
家の前は、空き地だったので、よく行われていたが、駐車場になった。
そのせいもあるのか・・・
秋の風物詩であるオーケストラを聴けないのは、寂しく思う。
いなくなったのか?
「苦情が激しくてね」
「苦情?」
「近所迷惑だから、よそでやってくれって」
そういって、去っていく。
夏の風物詩のセミも、今年は聴かなかった。
彼らも、近所迷惑とよそへ行ったのか?
切ない・・・
近くの並木道を歩く。
赤い葉が茂っている。
風が吹く度に、舞い落ちる。
それを拾う。
眺めてみる。
「あげようか?」
聞き覚えのある声がする。
声の主は、女の子。
毎年、この時期にやってくる。
「いらん」
「ロマンがないね」
「お前が言うな」
彼女は、かえで。
秋の精霊だ。
秋の精霊は、女というのは検討がついていた。
しかし、こんなに若いとは・・・
「私は、こう見えても、君よりもお姉さんだよ」
「どのくらい?」
「5000歳は、お姉さんだよ」
それくらいだと、おばあさんを通り越して、ご先祖様だと思う。
口にはしないが・・・
彼女曰く、「犬の10歳は人間の80歳だけど、その逆みたいな感じ」だそうだ。
「ところで、あの子たちだけど・・・」
「スズムシや、コオロギか?」
「うん。あの子たちから聞いたと思うけど、やはり近所迷惑だって」
風情を失っていくのか・・・
この国は・・・
「でも、オスはメスに食われるんだよな」
「必ずしもじゃないけどね・・・」
「彼らに聞いたら、『子孫を残せれば、構わない』だそうだ」
「その場は助かっても、冬が来る前に死ぬしね」
虫の世界も、男はつらい。
「で、久しぶりに招待しようか?あの子たちのオーケストラ」
「頼む」
「了解。じゃあ、今日の夜、君の家の庭でね」
「大丈夫なのか?」
「うん。平気。じゃあ、今夜ね」
かえでは立ち去る。
おそらく彼女が、指揮者だろう。
「指揮者は、君だよ」
「えっ?僕が・・・」
かえでは続ける。
「君が思った通りの演奏を、あの子たちはやってくれるから」
「どうやって、理解するんだ?」
「虫と意思疎通できるんでしょ?」
僕は普通の男子だ。
でも、かえでと出会ったときに、不思議な力を与えられた。
それが、虫との意思疎通。
ただし、限られてるが・・・
でも、これが便利だ。
とにかく夜中が楽しみだ。
今宵の宴は、何にしよう?
オーケストラ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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