7.使者 2


「へえー、凄い方なんですねえ」


「ええ、これでも子供の頃は天才美少年ともてはやされたもんですが。今ではしがない田舎の小役人、人生の悲哀をひしひしと感じます」


「へっ」


 ガルブが、小さく吐き捨てる。


「それにしても、奥さん」


「はい?」


「この小芋と茸の炒め物、絶品ですねえ! 王都の一流レストランにだって出せますよ!」


 リュカスは挨拶もそこそこに、テーブルの上の料理をガツガツと掻き込み始めた。


「でしょ?! お母さんのお料理は最高なんだから! お兄さん、もっと食べて食べて!」


 ラキィが隣の皿から卵焼きを取り分け、リュカスの手皿に乗せる。


「ありがとう。君、カンターラさんの娘さん? お名前は?」


「ラキィ! ラキィ・カンターラです! で、こっちが!」


「例の少年だね」


 リュカスはニコニコと、だが値踏みするような目でラルコを見た。

 それをラルコは、相変わらずキョトンとした顔で見つめ返している。暫く見つめ合った後、リュカスは「なるほどね」と、勝手に何かを納得したように小さく頷いた。


「名前を聞かせてもらえるかい?」


 ラルコは、問いかけるようにラキィの顔を見上げる。ラキィが頷くと、ラルコは正面を向いて、静かな声で告げた。


「ラルコ。ラルコ・カンターラ」


「泉の子(ラルコ)か、いい名だ」


 笑いかけながら、ポンポンと頭をたたく。ラルコは嫌がる様子もなく、くすぐったそうに首をすくめた。


「んで、お前は何しに来たんだよ」


 ガルブが、パンをスープに浸しながら尋ねた。


「ご想像の通り、このラルコくんの件ですよ。王都から通達があったのです。ちょっとマルジットまで行って、噂の子供を見分して来いと」


「王宮か?」


「まあ、そんなとこです」


 リュカスは、卵焼きを頬張りながら答える。


「で?」


「とってもいい子ですね!」


 リュカスは、翳りのない笑顔をガルブに向けた。


「ふん……」


 ガルブはその視線を受け止めながら、パンを飲み下した。


「で? お前、いつまで村にいるんだ?」


「そうですねえ、せっかく懐かしのカンターラさんにお会いできたのですから、2・3日は滞在して旧交を温めさせてもらおうかと思っていますが」


「仕事をさぼりたいだけだろ。それで、泊まる所は決まってるのか?」


「いやあ、それが。これから宿を探そうかと思っているのですが」


「じゃあお兄さん、うちに泊まればいいよ!」


 ラキィが叫ぶ。


「えっ、でも……」


「よし、決まりだ! 母ちゃん、こいつに着替えを貸してやれ!」


「はい、お父さん」


「えっ?」


「働かざる者食うべからずだ! うちに泊まるなら、飯代分くらいはきっちり働いてもらおう!

 さっそく午後から、畑仕事を手伝え! 文句は言わせねえぞ、お前はもう母ちゃんの手料理を食っちまったんだからな!」


「ええー……」


 畳みかけてくるガルブの言葉に、助けを求めるように振り返るリュカスに向かって、ラキィは「良かったね、お兄さん!」と、満面の笑みで応えるのだった。



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