7.使者 1


 ガルブが投げ付けた短剣を、だがその若者は指二本で平然と受け止めた。


「やだなあ、カンターラさん。冗談がキツいですよ」


 彼はにこやかに笑いながら家の中に入って来ると、ガルブに短剣を差し出した。


「ふん」


 ガルブは面白くなさそうな顔でそれを受け取り、テーブルの下に再びしまった。


「郡庁のお偉いさんが、何しに来やがった」


「あはは、お偉いさんだなんてそんな、ほんの下っ端ですよ。

 ご無沙汰しておりましたカンターラさん、相変わらずお元気そうで何よりです」


 若者はローブの頭巾を下ろし、黒髪を晒して頭を下げた。


「ああ。お前も相変わらずのようで、残念だ」


「あら、お知り合い? まあまあ、立ち話もなんですからどうぞお座り下さいな」


 ミンディがそう言って椅子を勧める。


「お昼はお済みですか? よろしかったらご一緒にいかがです?」


「えっ、いいんですか? いやあ、朝早く役所を出たもんですから、実はペコペコなんですよ。遠慮なくいただきます」


 ラキィは、その言葉を聞くと同時に席を立ち、食器棚へと走った。

 そしてラルコも、慌てて後に続く。その姿は本当に、主人の後ろをついて回る犬のようだ。


「はい、お兄さん! たくさん食べてね!」


「ね」


 ラキィが皿を、ラルコがフォークとスプーンを差し出す。


「やあ、どうもありがとう」


「パンとスープもどうぞ。えっと……」


「あっ、すみません! 自己紹介がまだでした!」


 ミンディの言葉に若者は慌てて立ち上がり、声を張り上げた。


「郡庁で統括管理部事務補佐官をやっております、リュカス・トリクラートと申します!

 ご主人とは、以前王都で門衛騎士団に所属していた時に御一緒させていただきまして、大変お世話になりました!

 こちらにお戻りになられてからは、なかなかお目にかかることも出来ずに大変失礼をしておりましたが、この度は王都よりの使者を命ぜられ、おかげ様でやっとお顔を拝見にうかがうことが出来たという次第であります!」


「あらまあ、王都で。あら? でもお父さんが騎士団に入っていたのって、私と結婚する以前のことだから、10年以上も前よね。

 こんなにお若いのに、騎士団でご一緒って、どういうことです?」


「騙されんなよ、若そうに見えるがもう30は過ぎているはずだぞ。

 こいつはな、10代で正騎士の称号を与えられたほどの超天才野郎なんだよ。餓鬼のくせにクソ生意気で、誰の言う事もきかねえもんだから、この俺がお守役を押し付けられていたんだ」


「そりゃ仕方がないでしょう。なにしろあの当時、我らが東門騎士団で私に勝てたのは、カンターラさんだけだったんですから。団長より強い準騎士って、反則ですよ」


「お前だって、団長より強かったじゃねえか」


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