6.刹那の平穏 1
翌日、大人達は夜が明けると同時に手分けして森に入り、少年の身元や連れの消息についての手掛かりを求めて、より奥の方まで捜索の手を伸ばした。
だが、結局一日かけても痕跡さえ見つけられず、また近隣の村々からも有力な情報が届くことはなかった。
人々は肩を落としたが、ただでさえ多忙なこの時期に、あまり多くの人手を割くわけにはいかない。ラキィや他の子供達も何とかしてあげたいと思いながらも、これと言って出来ることもなく、仕方がないので収穫の手伝いに一日を費やした。
ところが当の少年はというと、周囲の心配とは裏腹に、自分の境遇を気にする様子は全く見えなかった。
一日中ラキィの後をついて回って、大人の手伝いをする彼女の更に手伝いをしていたのだ。それも傍目には、実に楽しそうに。
子供ゆえの無邪気さだろうと大人達もホッと息を吐き、少年の世話は既に保護者を自認しているらしいラキィに、すべて任せることにした。
その後も、何の手掛かりも得られないまま数日が経ち、気が付けば少年はカンターラ家の一員として、すっかり村に馴染んでしまっていた。
少年は相変わらず一言もしゃべらず、名前すら知れなかったが、いつしか村の者達は彼のことを、『
ちなみに、ラキィの『ラ』も同じく泉を表している。『泉の小妖精』の意だ。
それもあってか、ラキィはその呼び名を随分と気に入ったようで、そして少年も素直に受け入れている様子だったのだが。
中には彼を『ラキルト(ラキィの男)』と呼んでからかう者もいて、ラキィはそれを聞くと真っ赤になって怒り出すのだった。
金髪の子供の噂は瞬く間に近隣の村々に広まり、時には遠方からも、評判の美少年を一目見ようと物好きな連中がマルジットを訪れてくる。
だが肝心の、ラルコの身元に関する情報は何ひとつ得られることはなかった。
そうして、事態は何の進展もないまま、1ヶ月が過ぎようとしていた。
―― * ―― * ――
「ただいまー! お母さん、お腹すいたー!」
「ただい…ま……」
勢いよくドアを開けたラキィの後ろから、ラルコのつぶやくような声がする。
今日は朝から、近所の畑に収穫の手伝いに出かけていたのだ。二人とも、背中の雑嚢にはみ出すほどの
「まあ、まあ! こんなに沢山いただいて来たの?!」
「テーテクのおじさんがね! 一生懸命やってくれたから、いっぱい持ってけって! ラルコも頑張ったんだよ! ね!」
「ね」
金色の髪と白い顔を泥だらけにしたラルコが、ラキィと顔を合わせて笑う。
ラキィはその笑顔を見て、満足気に更にニッコリと笑った。
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