1.白夢の審判 2

―― * ―― * ――



:::目覚めよ:::


 茫洋とした意識の中に、何者かの声が響いた。


=呼ばれているのは、俺か=


 その者は呼びかけられて初めて、自分が自分であることに気付いたような気がした。


=だが、ここは何処だ。なぜ俺はここにいる……。俺は……誰だ……=


 何も見えず、何も感じない。暗いのか明るいのか、自分の体がどうなっているのかすらも判らない。


:::目覚めよ、魔王よ:::


 再び声が響く。

 だが、どこから?


=俺を呼ぶのは、誰だ=


 その者は声に向かって呼びかけた。

 魔王とは、自分のことなのだろうか?


:::我は神なり:::


=神? 神とは何だ=


:::この世界を創り、支配する者:::


 その声は、雷鳴のごとき威厳と烈圧を以て辺りに響き渡る。

 だがその者は、抗いようのない脅怖に震え慄きながらも、屈することなく傲然と笑い返した。


=世界を支配するだと? それは魔王たるこの俺のことだ=


 その瞬間、その者は思い出した。そうだ、俺は魔王だ。


 だが声は断ずる。


:::お前は支配などしてはおらぬ。ただ好き勝手に暴れ回り、その挙句に世界中から嫌われ、疎まれ、滅されてしまっただけだ:::


=滅され……? そうだ思い出した。俺は確かにあの勇者に殺された。

 じゃあ、今ここにいる俺は、何だ=


 そう言いながら、自分の肉体がどうなっているのか確認しようとしたが、何も感じることはできなかった。


=いったい、どうなっているんだ=


:::お前の肉体は滅びた。だがその魂は、まだここに留まっている:::


=こことは、何処だ=


:::何処でもない。お前の魂は、これからあるべき場所へ向かうところだ:::


=あるべき場所とは、何処のことだ=


:::地獄:::


=地獄?=


:::お前は地上に生きる間、ただただ暴虐の限りを尽くし、世界に不幸を振り撒いた。その罪は償わねばならぬ。

 お前はこれから先の永劫の時間を、無限の痛みと苦しみの中で過ごすのだ:::


=無限の痛みと苦しみ……。永劫……。いやだ、そんな場所になんか行きたくない=


 その時魔王は、得体の知れない力が自分に掴みかかろうとしてくるのを感じた。

 魔王は言い知れぬ恐怖に慄き、慌ててその場を逃れようとしたが、その術がなかった。


:::お前の犯した罪は、決して許されるものではない:::


 あるはずのない肉体が締め上げられ、例えようもない苦痛が魂を苛む。

 魔王は、無慈悲な力に必死で抗おうとした。


=待て、ちょっと待ってくれ=


:::待てぬ:::


=お願いだ、許してくれ=


:::許さぬ:::


 肉体も力も失い、魂のみの存在となった魔王に、ただ一つ残されていたのは言葉だけだった。


=嫌だ嫌だ。そんなのおかしいじゃないか。俺はただやりたいように生きただけだ。生きていれば、誰だってそうだろう?

 そりゃあ少しは悪いこともしたかもしれない。けど、だって楽しいことは良いことじゃないか。好きなことをして何が悪いんだ=

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