魔王転生

たかもりゆうき

第一章 魔王

1.白夢の審判 1


 その者は、魔王と呼ばれた。


 力は絶大にして、性は狂悪。

 無慈悲で、残忍で、卑劣で、狡猾で。

 北の山脈の奥深く、雪と氷に閉ざされた極寒の地に居城を構え、幾万の魔物を従えて闇の世界に君臨した。

 そして時折下界に降りては、気まぐれに人間を襲い、街や国を滅ぼした。


 そうしなければならない、特別な理由があった訳ではない。

 ただ、気が向いたから。

 ただ、楽しかったから。

 大地を焼き尽くす炎がとても綺麗で、夜空に響く悲鳴が耳に心地よかったから。


 対する人間達も、決して無抵抗ではなかった。

 騎士や魔導士は力の限りに戦い、また、魔王を滅ぼすべく居城へも何度となく攻め入ってきた。

 勇者と称する者達も、数多くやってきた。

 だが、その者達が魔王の元まで達することはなかった。

 配下の魔物や魔獣に阻まれ、あるいは張り巡らされた罠に堕ちて、怨嗟の声を響かせながら命を落としていく。

 その様を魔法鏡で眺めながら血酒を啜るのもまた、魔王の無聊ぶりょうを慰める良き糧となった。


 だが、そんな血と殺戮にまみれた快楽の日々も、終りの時を迎える。


 魔王の前に立ちはだかったのは、極星の勇者と呼ばれた一人の男。

 彼は、人間界最高の叡智と魔法科学によって与えられた不死身の肉体を備え、龍をも一撃で斬り捨てる剛力と、聖なる力の加護になる絶対魔法防御、そして何よりもその生まれ持った不屈の魂を武器に、たった一人で魔物の軍団を打ち破り、魔王の玉座までたどり着いた。


 そして、凍てついた山脈を焼き尽くし天をも破る激しい戦いの末に、遂に魔王は命果て、朝日の下にその醜悪な骸を晒したのだった。

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