第4話 『煮詰められた蠱毒』

 生まれてきてからずっと、本当に褒められたことがない。

 それは私が何もしなかったことが原因でもある。

 決して自分が何もさせてくれなかったという訳ではない。

 むしろ、私はさせてもらって来た方だった。

 優しくしてくれた人生だった。

 だけど、私は皆の期待――――いや、努力を無駄にして来たんだと思う。

 いくらでもチャンスはあった。

 だけど、私はそれら全てを無駄にしてしまった。

 そう、全部失敗してしまった。

 誰かの手によって失敗したのではなく、私自身で自らを失敗作にしてしまった。

 誰かを責めることなく、誰かに責任をなすりつけることが出来ない。

 それは全て、私の行いによって積み上げられた愚かな私なのだから。

 

 私は好きな事が色々ある。

 でも、好きな事で他の子と繋がることは無かった。

 他の誰よりも秀でる事も無かった。

 むしろ、劣っていた。

 だから、嫌いになっていった。

 そんなことをしているから、嫌いなことは好き以上に背よっている。

 私は遊ぶのが昔から好きで、今も遊んでいる。

 一人で。

 元来、私は同世代の子や年の近い子と遊ぶ機会が無かった。

 それは決して、私の体が弱かったとかではない。

 むしろ、体は丈夫であった。

 痛め付けられる程には。

 でも、それでも良い。

 だって、私はその時、一人では無いからだ。

 皆が私に声をかけてくれる。

 話しかけてくれる。

 私は普通とは違うと。

 異常であると。

 でも、私はそれでも良い。

 異常なおかげで、私は外と繋がれるのだから。

 だから、私はそれで良い。

 でも、私は普通に外と繋がりたかった。

 そうだった。

 私は父に一度でも褒められたことは無かった。

 父は私の事が嫌いであった。

 私のいない所で、壁一枚を隔てて、私の事を無能かアホ、その時々の感情にまかせて罵倒する。

 でも、それは父が悪いと言った告発ではない。

 むしろ、告発――――いや、断罪され地獄に落ちるのは私の方だ。

 だって、私は父の言う罵倒の言葉を否定することが出来ないからだ。

 それは紛れも無く、全て私を言い当てているからだ。

 過去の事ではなく、今現在を生きている中で私がしていること全てであった。

 それでも、私は父親に認めて貰いたかった。

 どれだけ、足掻いても認めてはくれない。

 努力が足りない。

 褒めるに値しない価値しか見いだせないからだ。

 こんなことを、誰かに認められたいなんて思うこと自体がタブーなのかもしれない。

 いや、そうなのである。


 人間は誰かに認められないと生きられないものであろうか?

 それとも生きてはダメなのか。

 どれが正しいのかわからない。

 誰かに認められることで生き方や行くべき道を指針にとる人もいる。

 それは安全に生きたいためだろう。

 誰かが自分の前を歩いているから、安全だと思える。

 そんな人に褒められるという事は自分の歩み方は間違えていないと思える。


 また、誰かが自分の前にいることが嫌うモノがイルならば、認められない生き方をするのも正しい。

 でもその道のりは誰にでも出来ても、誰しも成功出来る者では無い。

 成功者は、多くの人の罵倒を乗り越えて偉業をなす。

 だけど、凡人は罵倒の末に無能となる。

 それは罵倒したモノ達のせいではない。

 乗り越えれなかった。磨ききれなかった自分のせいなのである。

 そう、自分に勝てなかったのである。

 本質的に罵倒された事が失敗に繋がったのではない。

 その後や以前に動かなかったのが原因なのである。

 何も出来なかった、何も成し得なかったのは自分が何もしなかったからだ。

 何もしなければ、失敗はしない。でも、失敗なくして成功もない。

 何も生まれない。

 だから、価値が生まれない。

 誰かに価値を求める前に、自分で価値を見いださなければならない。

 でも、それは誰もが出来る事ではない。

 失敗作で終わってしまう。

 それが僕なんだと思う。

 違う、それが僕なんだ。

 だから、私は一度も褒められない。

 そして、罵倒だけが私に残る。

 ずっと、私の中で言葉は生きている。

 私が死ぬまで永遠にそこに居続ける。


 いつも自分が嫌いと思う時がある。

 どうしようもなく、自分を責めてしまう。

 自分を責めても何も良い方向にならないのに。

 でも、そうせざるを終えないからだ。

 だって、自分が嫌になるのは誰のせいでも無い。

 自分のせいなのだと、ずっと分かっている。

 だから、自分をせめている。

 自分はこの世界で一番悪い存在なんだと。

 だから、殺される必要がある。

 でも、誰が俺を殺す。

 自分は、自殺するほどに勇気がない。

 結局は生き地獄なのである。

 本当に地獄である。

 死ぬよりも辛い。

 生きるよりも辛い。

 自分はその中間点の狭間で苦しんでいる。

 それが自分の今までだと思っている。

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