第113話 ※疑念祭り
「……ハッ! いつの間にか寝てしまっていた! なんか酷い悪夢を見ていた気がする気がする! 五香が猛獣に食べられちゃう的な……」
「夢じゃねーなァ」
気絶から復帰した涼風の眼に映るのは悪夢のように大きな狼(とそれに乗る呑気な顔の五香)。
「……きゅー」
「あー待て待て待てまた気絶すんなってェ!」
「五香お姉。コバヤシはこれから余らのパーティに加わるということでいいのだな? ジョアンナやドクターとは別働隊としてこれからもこのビルを調査すると」
「まあ来てしまったモンは仕方ねーしなァ。ひとまず部屋の外で番犬でもさせとくかァ?」
人数と人員の都合上、外に見張りは置けなかった。だが今はコバヤシがいる。能力値的にも申し分は無い。言えば問題なくやってくれるだろう。
「じゃあひとまずコバヤシ。お前は部屋の外で見張りを……」
「……グルルルルル……!」
何の前触れもなくコバヤシは剣呑とした表情で唸り始めた。
続いて、その行動に最初は疑念を覚えていたメルトアも気付く。
「五香お姉!」
「……ああ。お前らの反応で何となくわかっちまったなァ。もう番犬は必要ないらしい」
誰かがやってくる。今度はコバヤシにもメルトアにも覚えがない誰かが。
「……余が壊したドアの前で止まったようだ。警戒している」
息を潜めながらメルトアが小声で呟く。
「他に何か感じるかァ?」
「全部剥き出しだからわかりやすいぞ。焦りと、困惑と、隠す気一切無しの敵意だ」
「マミー!」
そこで五香たちは自分たちの不覚を呪った。この居住スペースにいるのは味方だけではない。
パノライラの叫び声に呼応し、気配の主は警戒をかなぐり捨てて中へと入ってきた。もう五香の耳にも聞こえるような足音を大きく響かせて。
「パノラッ!」
子供部屋にて、コクリカと五香たちはついに対峙する。
誰にとっても最悪の形で。
◆◆◆
「コクリカを追うのは一旦中断してさ。ちょっとウチの用事に付き合ってくれない?」
「
「実はさっき面白いもの見つけてさ。そんなに遠くないんだけど」
「鼓膜がお留守なの? イヤって言ってるでしょ」
服を着込み、治療を行った部屋で二人は方針の確認をしていた。それは同時に、性格の
「情報なしで行き当たりばったりの探索をしたいのならご自由に」
「……チッ。断る方が
「このセントラルビル、何割かの階層がファクトリーってなってたでしょ? ふと『あれって何の工場なのかな』って思ったんだよね。で、ウチは軽く探索したんだけど」
あまり気分のいい話では無さそうだ。ジョアンナはその鋭い嗅覚で何となく話の行先がわかってしまった。
「ゼロイドの生産工場、またはメンテ施設ってところでしょ?」
「問題はゼロイドの生産方法だよ。その表情からすると原材料が何だったのかまで予想が付いてるって感じだね?」
「……そこまでは……実際に見たわけじゃないし……」
半分本当のことを言って、残りは表現を濁した。ドクターの言うことは図星だが、できれば外れていてほしい予想だったからだ。
だがドクターはそんな心情を省みない。ジョアンナの表情から読めているだろうが、そんなことはどうでもいいことらしい。
「引っ張っても仕方ないから言うけど、原材料は人間の死体だったよ。化生山吹の出来損ないや出来かけがウチの侵入した場所にはうようようじゃうじゃいた」
「ああ……そう。知りたくなかったわ。胸糞悪……」
「どこから調達してきたのか。その辺もやっぱり大方の予想通りでさ。この町の協定に付いていけなくなった連中……つまり金の切れ目にあっちゃったヤツらだろうね。何人か
「もうほとんど言っちゃってるじゃない。その説明だけで十分でしょ。面白いものってそれ? わざわざ見に行く必要あるかしら? ないわよね?」
「あるよ」
「ないってば!」
「キミにはあるよ」
「……はあ?」
妙な言い方をする。彼女にしては珍しく、からかうような感じではなく、至極真面目な印象の目付きで真っ直ぐと。
「何よ。私にはって」
「ウチはまあ別にどうでもいいんだけどさ……五香ちゃんには関係あることだし」
「……? 要領を得ないわよ、まだ」
「本人も言ってたことなんだけど、五香ちゃんの姉って行方不明だとか言ってなかったっけ?」
そうだったかしら、と記憶をまさぐる。
『……むかしに行方不明になっちまった、私の姉貴のマネだよ』
すぐに思い出せたのは五香との付き合いがまだ短いからだろう。探す記憶量が少ないのはこういうときに便利だ。
確かに五香は自分の姉が行方不明だと言っていた。
「……言ってたけど、だから? さっきから話が飛び飛びよ」
「見つけちゃったんだよね」
「……」
また話が飛んだのだ、と思いたかった。しかし違う。今度は点と点を明確に結ぶつもりでドクターは喋っていたし、ジョアンナもその意図に気付いてしまった。
「……な……は?」
「いたよ。ゼロイドの原材料になってた死体保管庫の中にさ。名前が書いてあるタグ付きだったから少なくとも明智家の女であることは確定。保存状態良好だから顔までバッチリ見えてたし」
「……!?」
何かが足元から這い出して来る錯覚に陥る。
恐怖そのものが足を絡め取るような、そんな感覚だった。
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