第95話 ※探索・アゲイン

 とは言え、やはり手がかりという手がかりがあるわけではない。捜査における最初の段階、違和感を探すところから開始しなければならないだろう。


 探す物が何なのかを掲げることも始めた方がいい。


「……探るとしたらやっぱり連中がこのビルで何をしていたのか、だよなァ」


 出入り自由だったのはメルトアがゼロイドを全滅させたからだろう。警備を担当するロボが不測の事態で消えたということ以外に、この場所を無防備にする理由が思い付かない。


 普段はそこそこ多くの化生山吹がこのビルの要所を守っていたに違いない。


(待てよ……そもそもここは町長や副町長のオフィスがある中枢だろォ? サーバールームやら正体不明のファクトリーやら怪しい物は他にも色々あるし……いや、副町長のコクリカがゼロイドを作り出したのなら、普通自分の手の届きやすいところにメンテ設備……もっと言えばエネルギーの補給路を用意するんじゃないか? というか……)


 ゼロイドについての推理を掘り下げる。

 メルトアがあっさりと下してしまったから今の今まで気付かなかったが、よく考えてみればあのロボット群はおかしい点だらけだ。


(ゼロイドの戦力は強いヤツで混竜種ドラゴニュート並みだ。しかもあの数を揃えるのには相当時間がかかるはず。逆に考えればゼロイドが三丁目の治安を維持できるまで揃ったのもかなり前の話ということになる。でもテロ対策にグレイヴベルト王国の女王親子が呼ばれたのはつい最近。

 政府が想定していたテロのストーリーにはゼロイドのことなんかまったく無かったと考えるのが妥当だ。

 ……あの暴力装置そのもののゼロイドを、獄死蝶側も外へのテロに使う気が。そうでも考えないと、今の今まで情報が漏れなかったことに説明が付かない。煙が立っていないのは火が無いからだ。

 もしも使う気だったのなら外で周囲への被害度外視の実用テストをとっくにしていたはずだ。ヤツらは犯罪者。ぶっつけ本番で使う理由の方こそまったくないだろうし)


 逆に言えば、十一月にしては不自然なこの暑さは、件のテロ兵器のちょっとしたデモンストレーションやテスト運用も兼ねているのかもしれない。

 だからこそ情報が漏れ、メルトアたちが日本へ呼ばれたのだろう。


(外国の王族を呼ばないと対応できない事件や兵器って時点で相当だが……ひょっとしてゼロイドをテロに使わないのは、ただ単純に本命の兵器か何かがゼロイドを全部集めた戦力よりもずっと強いから……とか……?)


 ありえない話ではない。政府がメルトア親子に救援を要請したこと、そして子供のメルトアがゼロイドを全滅させてしまったことから考えれば、いかに規格外とは言え獄死蝶の切札の強力さの片鱗くらいは予想できる。


「ファクトリー……ファクトリー、かァ……」


 工場と言うからには何かを作っているのだろう。コクリカがこのビルで一体何をしていたのか、俄然気になってきた。


 だが今ではない、とも思う。そちらは今、ジョアンナが何かをしている最中だ。デバイスでジョアンナの位置と動きを見るに、まだ遭遇したコクリカを追っている最中らしい。階層は件のファクトリーの辺りだ。

 やはり獄死蝶最後の一人。一筋縄では行かないのだろう。鈍く、遠くに爆発音が断続的に聞こえることから激闘と言って差し支えない。


「下に行くのは後だなァ。ならこっちはやっぱり……」


 ここは五十階。ガムシャラに逃げたにしても、相当下まで走ったものだと五香は空笑いし、上へと意識を向ける。


「副町長のオフィス、アゲインだろうなァ」

「任せよ。今度こそ絶対に五香お姉は守ってみせる」

「正気か……? また町長に会いでもしたら……」


 今度は脳震盪では済まないかも、とは縁起が悪すぎて涼風も言えないようだった。

 五香はグシャリと頭を掻き、目を前へと向ける。

 三つ編みが解けているのは不安材料の一つだった。いつもの格好ではないというだけで相当落ち着かない。


「……今度は負けねーさァ。上に行く道すがら、メル公から情報を貰うからなァ」

「ム? 余か?」

「多分、もう目星付いてるけど……パノライラの持っているあの赤い盾の能力は……」

「うむ! だぞ!」


 五香が推測する前に、メルトアが勢いよく答えた。

 やはりこれで正解だったようだ。五香の推理もまったく同じだった。


「超加熱? 火を使うってことか? それこそ混竜種みたいに」

「いや。そうではない。もっと超能力じみた力だ。そうだな……何と言えばいいのか……」

「なァ。ひとまず上に行こうぜェ。その途中でいいだろォ? 今のところはアレが射出する小さい爪状の物に触れたらってことだけ頭に叩き込んどきゃいいしよォ」

「終わり? 何が?」


 涼風がそんなかったるいことを言うので、五香は簡潔に答えた。


「私たちの命」

「……お、おお……上に行きたくなくなってきた……」

「大丈夫だ! 涼風もいいヤツだとわかったからな!」


 不安を隠さない涼風に、メルトアはドンと胸を張る。

 ぽよん、と胸が揺れたのに思わず目を奪われたのは涼風と五香の共通の秘密だ。


「余が二人とも守ってやろう!」

「お、おう……デカ、じゃなくて頼もしいな」

「な? デカ、じゃなくて安心だろォ?」

「デカ……?」


 この場にドクターもジョアンナもいなくて本当によかった。五香は心底からそう思い、安堵するのだった。

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