第94話 ※超超超ヤな感じ
「ク……ソ、がッ!」
ライオットシールドで身を守り、爆発をいなしたジョアンナは地面に転がって衝撃を逃がす。
ジョアンナは今、人生史上で最も恐ろしい相手を敵に回していた。
四麻より、パンプキンキャンディーより、マリーシャよりもずっと恐い。
何故なら相手はこの世で最も強い武器を振るうからだ。
五香が持っているモノと似て非なる武装を持った者。それすなわち――
「ニャーン」
「ヒッ……!」
すなわち、ふわふわ、もこもこ、四足歩行でしなやかに歩く――
「ウニャーン。ニャーン」
「ヒィ……やめて……来ないでっ……!」
普段ならば一も二も無く自分から飛びつく概念。それに特化した動物。
「グルニャーン」
「あ……あ……いや……」
食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ亜種イエネコ。
もっと言えばくりくりお目目の可愛い子猫である。
「イヤアアアアアアア! 可愛いーーーッ!」
そう。この世で最も強い武器。それは『可愛い』ことである。
そして当然ながら敵地をテチテチと歩くこのネコはただの猫ではない!
その可愛さにひるんだ次の瞬間、ネコの身体が内側からグシャリと歪んだ。
「あ、やば……いぎっ!?」
このネコは爆弾。より正確に言えばネコの見た目と動きを完全にトレースしたホーミング機能付きネコ型爆弾。
辛うじてバックステップが間に合い、盾も相まって致命的なダメージを受けることは避けられるが、衝撃すべてを逃がしたわけではないので痛いものは痛かった。
「……
「ニャーン!」
「あああああああああああ可愛いいいいいいいい!」
また新たなネコが現れ、ジョアンナの目前で爆発する。
ジョアンナの中にあるのは、こんな可愛いロボットを平気で壊すコクリカとの趣味の合わなさへの落胆であり、卑劣さへの怒りだ。
(どっちにしろ……危険だから五香のところには行けないし。コイツはこの場で捕まえないといけない。相性は最悪だけどやらない理由にはならないのだし!)
もしこの場にいたのがドクターだったのならネコ型の爆弾など簡単に切り刻んでいただろう。それも数回あえて起爆させて信管の位置を確認し、起爆しない太刀筋で両断していたに違いない。
(アイツ、今何してんのかしら! 忌々しい! こういうのアンタの仕事でしょうに!)
ドクターの携帯はジョアンナが回収したので連絡が通じないことはわかっている。故に五香の携帯に現状を簡潔に伝えた。
ネコ爆弾の猛攻を掻い潜りながらコクリカを追っているため、送信した後は携帯を見ていなかったのだが、そろそろ増援が来てもおかしくないころだ。
(それとも向こうでまだゴタってるのかしら。それなら増援は期待するだけ無駄だけど……いや本当に相性悪い! イライラする!)
「ああ……あわわわわわわ……パノラー! 追われてる! すぐに来て! パノラー!」
この状況にいい点を無理やり見つけるとするなら、相手にも増援が何故か来ないということだろうか。
攻撃の種類もさっきからネコ型爆弾オンリーだ。有効だから連発しているというのも当然あるだろうが、もう一押しあればジョアンナは陥落しかねない。
いまいち決定力に欠けている理由は一体何なのだろうか。
(……まあいいわ。耳と鼻を頼れば姿が見えなくとも追うのに支障はない。アイツに追いつくのが先か、私が爆発で
◆◆◆
「まだジョーに合流するわけにはいかない」
「え」
聞き間違いか、とメルトアが声を上げる。だが五香は無機質な、それでいてダイヤモンドのような意思の硬さを思わせる眼をしていた。
「何か引っかかる。人がずっと見えないのもそうだけど、もっとずっと別のところで変なんだよなァ。それを放っておいたままジョーに合流するのは返って足手纏い……というか状況の悪化を招く気がしてよォ」
「いや、だがジョアンナと合流した方がこのビルの探索には安全だろうし……第一、逆にジョアンナが危険ではないのか?」
五香は携帯を見ながら考える。
コクリカを発見したことはジョアンナからの連絡でついさっき知った。だが、それをメルトアにはまだ伝えていない。ついでに言うなら隣で不安そうな顔をしている涼風にも教える気がない。
(ジョーは裏っちの手が空いているようならこっちによこせと言っている。でも私たちへの指示に関してはノータッチだ。『五香たちもついでに合流しろ』とまでは書いていない)
信用されていると解釈してもいいのかもしれない。
明確な考えとして思いついているわけではないかもしれないが、ジョアンナは理解しているのだろう。
合流のメリットとデメリットを勘定するのは五香の立場でやらなければ意味がないと。
(情報収集は私が申し出たわけだからなァ。それに今この状況は理想的だ。敵を今まさに、ジョーが引きつけているわけだから)
五香たちを呼び戻さない理由はそこだろう。
ならば五香のチームがやることはたった一つしかない。
「進もう。速攻でこのビルを調べて、速攻でジョーに合流。速攻でこの町を脱出してドクターも救出だ! それしかねーってェ!」
「おい! また怪我したいのか!?」
涼風が怒鳴るように訊ねるが、五香は鼻で笑った。
「まさか。私はただ、私自身のやらかしの責任を取る方法がこれしかないって信じてるだけさァ! だからメル公!」
急に声をかけられたメルトアは眼を丸くする。
「こっから先、お互いに謝るのは無しにしよう。失敗の責任は大勝利でしかそそげないからなァ」
「……ッ!」
悲痛な面持ちで、メルトアは頷いた。今はそれで構わない。
これが合理的な決断だということは間違いないのだから。
「行くぜェ。調査続行さァ」
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