第69話 ※突撃! 町長の事務所!
「……五香お姉! シャッターが開いてきたぞ!」
とメルトアが言ったのが二十分前。五香と涼風はシャッターの内側にいる犯罪者たちに、揃って警戒を強める。
「ん……? 特に誰も出て来ないな? 視線は感じるが」
このメルトアの台詞は十分前のこと。より正確に言えば外に出る人間は遠目に確認できる範囲ではチラチラと見えたのだが、三人に気付くと避けるように手近な建物の中に引っ込んで行ってしまった。
「……もうそろそろか? 目的地は」
「そろそろというか、もう見えているが……いい加減何かおかしいぞ?」
涼風が立ち止まり、周囲を見回す。
人気がまったくない。かと言って人間が消えているというわけではなく、建物の中から誰かに見られているような気配はある。
店も営業を再開しているが、そこはかとなくお断りの雰囲気が漂ってきている。直で言われているわけではないが、店頭の陳列棚がガッツリ入口に向かって移動しており『こっちに入って来て貰いたくない』という意思を感じた。
「あんだけ大暴れしたメル公を見ればさもありなんだろうなァ」
「余のせいか」
「道が空いてるのはいいことだぜェ?」
「余のおかげだな!」
「子供っぽい受け答えだな。図体の割に……」
この行軍は五香の想定していたペースよりも遥かに早い。
運悪く四麻と遭遇するという
「で。あれが町長の事務所でいいんだなァ?」
五香が見上げる先には、表の新宿で見るような高層建築が一棟。五十階は超えているだろうか。
明らかに三丁目にある他のどの建築物より大規模だ。侵入は大がかりなものになるかもしれない。
「さぁて……いよいよ侵入だなァ」
「化生山吹を纏めて消し飛ばすような力を持ってるのなら力尽くが通じるはずだ……が……改めて訊くが、お前らは外の世界に出るということでいいんだな?」
本当に今更すぎる質問だ。五香は肩を竦め息を吐く。
「そうなんだけど……行きずりで無理やり同行させちまったから、その辺の擦り合わせ全然してなかったもんなァ。どっか落ち着ける場所で話せる時間がありゃいいんだけどよォ」
現状に歯痒さを覚えていると、五香の携帯が震えた。
すぐに携帯の画面を見ると、そこに書かれていたのはドクターからのメッセージ。
まるで図ったかのようなタイミングに、丁度いい情報が届いた。
『四麻と遭遇! ピストルちゃんが喋って時間稼ぎしてるよ!』
「話せる時間ができた。そこのバリ作ってるハンバーガー屋入んぞォ」
「奢りか!?」
「ああ、たくさん食ってデカくなれよォ」
「やったー!」
「これ以上デカくなるのか……? あと、見た感じあのバリは結構本格的だぞ。あれをどかすのは結構な手間――」
メルトアが五秒でどかした。
「……つくづく怪物だな。混竜種って」
なまじ一緒にいる時間が長いだけに、五香はその言葉にあまり同意できなかった。幼女としてのパーソナリティを理解しているだけに。
◆◆◆◆
「明智五香。まだ十五歳。高校生。趣味は美女と美少女。よろしくおなしゃーーす」
「もぐんもぐんもぐん。余はメルトアだ! もぐんもぐんもぐん歳はもぐんもぐん」
「口に物入れたまま喋るなってェ」
四人席に座り、片側にはメルトアと五香。逆側には涼風だけが座っている形で、今更ながら三人は自己紹介を済ませた。
涼風はポテトを摘まみながら、やっと気が抜けたように喋り出す。
「やっぱり四麻じゃなかったんだな。それどころか高校生……一体どうしてみんなお前のことを四麻だと誤解していたのか、今となっては不思議だよ」
「ホテルのチェックイン時に年齢確認されて、咄嗟に四麻叔母さんの警察手帳を出しちまったからだろうなァ。ま、半分近く自業自得さァ」
簡単な推論を披露してから、ハンバーガーを口に突っ込む。
美味かった。パティはコショウが利いていて、チーズも絡むことで最高になっている。パンズもそこら辺にあるチェーン店では考えられないほどにフワフワで食欲を減衰させることがない。むしろ手も口も加速する。
「やべーなァ。ここのハンバーガー。値段以上の価値があんぞこれ」
「五香お姉。おかわりが欲しい」
「あ? あー。もう食っちまったのかァ。まああんだけ大暴れすりゃあ腹も減るかァ? すいませーん! ドデカバーガーセットあと三人分くださーい!」
バリケードを作っていた割には、店の対応は誠実そのものだった。毒を盛ったりしていないことも五香の観察で確認済みだ。
おそらくバリケードを作っていたのは店員ではなく、店にいた客たちだ。店員はまるで機械のように粛々と仕事をしている。
(……実際機械なのかもしんねーなァ。ゼロイドだったかァ? 戦闘用のものしか作らないってのも逆に不合理だし……)
「五香お姉……」
「ん? おお。ポテトだろ? 別に私のも手ェ付けていいぜェ」
「ありがとう!」
と、嬉しそうに言った傍からメルトアはポテトすらも高速で消費していく。
それを見る涼風の顔はまるでサファリパークでライオンの食事を間近で見る観光客のようだが、無理もない。ここまで食べるとは五香も予想外だった。
既にメルトアは四人前くらいはとっくに食べている。
「……食事するだけの金はまだあるけど……ちょっと心配になってくんなァ」
「この山城涼風、金は持っていないぞ」
「ああ、いいってェ。それよかアンタとは諸々話しておかないといけないことも多いしよォ。まずは知っている限りの事務所の構造を教えてくれると助かる」
「もちろん」
幸い、この店は五香たちが入った時点で客が逃げ、ほぼ貸し切り状態と化した。監視カメラの角度も数も、そこまで気にする必要が無い席に座っている。
作戦会議をするには最適な場所だ。
「じゃあまずは町長の事務室とかがわかれば……」
「五香お姉! ジュースが切れてしまった!」
「あ。ドリンクバーはあっちだぜェ。で、町長の事務所……」
「どりんくばー?」
「ん? ああ、ドリンクバーは未知の文化かァ? メル公、ちょっとお姉に付いてきなァ。ドリンクバーの作法を色々教えて……」
「早くしろッ!」
涼風に怒られてしまった。
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