第三節 邪神復活阻止計画 前編
邪神復活阻止計画 前編 その一
一九一八年 一一月 宮森の自室
◇
比星
『まあ、宮森さんが入定すると云うのは冗談だけどね。
霊力操作が出来る事に越した事はない。
今日、僕がこの下宿を探り当てた時に使った
『そう云えば詳しく聞いていなかったな。
今日一郎は九頭竜会の施設に軟禁されていて、外出するには事前の申請が必要だったね。
今日の訪問はどんぴしゃりな感じだが?』
『外出申請は問題なかったよ。
儀式の日取りは絶対だからね。
問題なのは僕に付いてる監視の方だ。
彼らは九頭竜会所属の魔術師、騙し切るのは骨が折れたよ』
『どうやったんだ。
今の自分に理解出来るかどうかは怪しいけど……』
『それはね、昨日の儀式で明日二郎が
あれを利用した。
あれは、儀式の参加者に一種の催眠を掛けて場に満ちる邪念の流れを滑らかにする行為なんだけど、明日二郎が弾く旋律に記憶操作の術式を織り込んでいたんだ』
『何となくは理解出来たが、あの神官達も魔術の熟練者なんだろう?
よく感付かれなかったね』
『そこは僕達兄弟の腕の見せ所さ。
明日二郎は記憶操作の術式を、僕はそれを気取られないよう、弟の術式に迷彩を施す。
普段は僕の監視を行える程の神官達も、儀式で自分の仕事をこなすのに手一杯だし、儀式を成功させる為の邪念も潤沢に用意されていたんでね、一つ引っ掛けた』
『昨日仕掛けた術が今日になって影響を及ぼすのか?』
『【
大抵の場合は対象を傷付けずに済むから、何かと便利なんだ。
足も付きにくい』
『霊力操作で色々と出来るんだな。
これからもその方法で連絡を?』
『今日は何とか監視の目を
だから貴方にも協力して貰う』
『自分は、具体的に何をすれば良いのかな』
『明日二郎には宮森さんの脳内に
『今日一郎、今さらっと凄い事言ってくれたよね。
明日二郎が自分の脳内に居着いて霊能力を開発?
それって同居では……』
『同居だね』
『同居だぞ』
『ですよね。
じゃあ、暫くは今の状態が保たれるのか』
『これから九頭竜会に立ち向かう為にも宮森さん自身の命を守る為にも、明日二郎には憑いていて貰った方が良い』
『や、矢張り命の危険もあるんだな。
九頭竜会の最重要儀式に
『心配すんなミヤモリ。
いざとなったらオイラが守ってやる。
あと、オイラに呼びかける時はセンセーを付けるように。
以上だ』
『アリガトウゴザイマス明日二郎センセー。
今日一郎、明日も儀式なんだよな。
それは何の意味を持つ儀式なんだ?』
『宮森さんとの会話が楽しくてつい前置きが長くなったけど、やっと本当の本題に入れる。
先ず、世界中の魔術結社が邪神の復活を目的として活動しているのは話したね。
九頭竜会は他の魔術結社に
瑠璃家宮一派はその中心だ』
『邪神の落とし子である君達でさえ成し得ない事をどうやって……』
『その為の準備に当たるのが昨日の儀式も含めた一連の研究さ。
九頭竜会が行った調査では、魔術行使や交霊儀式などの効果が年々減衰しているとの結果も出た。
ただ魔術儀式を行っただけでは邪神の完全復活は叶わない。
物質界自体も常に変化しているんだ。
その様な背景もあり、邪神崇拝者達は否が応でもムー・アトランティス文明時代の科学技術を復元しなければならない』
『その為に結成されたのが九頭竜会で自分にも白羽の矢が立ってしまい、多野教授の口車に乗せられてのこのこ入会してしまったと……。
つくづく自分の愚かさが嫌になるな』
『そう自虐的になる事はないよ。
九頭竜会の奴らも、宮森さんの様な霊能力者や才能ある科学者を囲い込もうと
敵対勢力であるアトランティス派の魔術結社が、欧米列強国を隠れ
それに、九頭竜会内部でも陸軍・
発言した比星
気分を害していると云うよりも、自責の念の比重が大きい。
宮森は今日一郎に問い掛けてみた。
『今日一郎。
君達は大昇帝派との間にも因縁があるのかい?』
『因縁、と言ってしまえばほぼ世界中の人々と因縁があるよ。
特に今のヨーロッパの人々とは……。
先程も説明したけど、邪神の召喚には贄が必要になる。
明日二郎の様な存在も例外ではない。
弟が今この場に存在出来るのも、先のヨーロッパでの大戦を利用して多数の贄が今も供給されているからだ』
『オイラは……その戦争で苦しんだ多くの人々の犠牲により、
口惜しいけどよ……』
『宮森さん。
僕達は存在するだけで人々を不幸にしてしまう、まさに呪われし者だ。
利用しようとする者達が後を絶たない。
当然、大昇帝派も
『そう……だったのか。
じゃあ大昇帝派と瑠璃家宮派両方に接点があるんだな。
昨日、瑠璃家宮が「直ぐにでも実行に移せ」とか言っていた。
何の事か見当は付くかい?』
『それは今欧米で流行している疫病の事だと思う。
正確には、九頭竜会などの魔術結社が中心となって欧米で故意に蔓延させている疫病だ』
『意図的に疫病を蔓延させている?
もしや、その疫病に
『宮森さんの言う通りだよ。
瑠璃家宮がそう言ったのなら、大昇帝派は主にヨーロッパ諸国、瑠璃家宮派は主にアメリカ合衆国で動いている。
勿論、この国にも疫病を流行させる準備をしている筈だよ』
『……なんて事だ。
それは止められないのか、今日一郎』
『この国での感染爆発は来年末から再来年始め頃になるだろう。
残念乍ら感染爆発を阻止するのは無理だね。
動いている機関が多過ぎる。
僕達の手には負えない案件だ。
それにこの疫病は、綾の身体が儀式で変容した事にも関わっている可能性がある』
『くそっ!
大昇帝派が勝とうと瑠璃家宮派が勝とうと、世界は滅茶苦茶にされるな。
更には人体の異形化にも関わりがあると?』
『僕達に今出来る事は、邪神復活に関わる儀式を失敗に終わらせる事だけだ』
『その儀式ももう明日か。
今日一郎、儀式の詳細を教えてくれ』
◇
邪神復活阻止計画 前編 その一 了
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