邪霊とは その三
一九一八年 一一月 宮森の自室
◇
講義内容は比星一族の祀る邪神へと内容が移る。
『今日一郎、比星一族が祀っているその邪神の名は一体何と呼ばれているんだ?』
『矢張りそうなるよね。
比星一族が祀っている邪神に限らず、邪神は様々な国で様々な名で呼ばれている。
比星一族が祀っている邪神のこの国での記述は、
『淡神に泡神……。
先日の儀式で君が出現させた、あの虹色の球体の事を表しているんだね』
『ああ、それだ。
無論、
いくら専門の研究者であったとしても、魔術結社と縁がなければその名を耳にする事も名が記された品物を見る事もないだろう』
『そこまでして厳重に秘匿されているとはね。
神の名は
神の真名が他の魔術師達に知られてしまえば、そこから術式を解析されて一族の優位性が薄まってしまうからか?』
『四分の一だけ正解。
後は間違っているかな』
『う~ん、一応は専門の筈なんだけど。
いかに自分が嘘の学問を刷り込まれて来たのかが解るな……』
『邪神の真名についてだけど、神の名を妄りに唱えてはならないの部分は正解。
問題はその理由だ。
そもそも、邪神の真名は
『発音が……不可能?』
『そうだよ。
もし人間の発声器官が邪神の真名を正確に発音出来てしまったのなら、真名を呼んでしまった者はそれだけで邪神に目を付けられてしまう。
最も酷い場合は、真名を呼んだ者の人生そのものが邪神の目的を果たす為の道具として利用され、確実に破滅への道を歩む事になるだろうね。
真名を呼ぶ、とはそう云う事だよ』
『直接発音する事が出来ないから、
『上手い事
宮森さんはどう思う?』
『
だとすれば、その封印を施した者が現生人類の創造主と云う事になる。
旧神、なんだろうか』
『どうなんだろう。
旧神の名前すら判っていないからね。
只、
封印のうちの一つだとする宮森さんの考えには賛同するよ。
後、比星一族が崇拝し召喚する邪神の真名は、宮森さんも既に体験して認識している筈だ』
『え? 既に体験して認識している?
儀式の時の言霊か。
憶えている。
確か……
『宮森さん止せ!
今は言霊を認識するんじゃない。
明日二郎!』
儀式で
『ホイキタオニイチャン!
ミヤモリ、チョット痺れるぞ~。
トリャーーー!』
宮森の脳内に巣食い、今日一郎との
『ん、ン、ガガガガがッ……』
『もうちょい……ヨシッ!
もういいぞ~ミヤモリ』
『ガ、痺れ! ががッ……あ、戻った?
な、何してくれたんだ明日二郎?』
『済まない宮森さん。
明日二郎を責めないでやってくれ。
僕が
不用意に邪神の真名を認識させてしまう所だったよ……』
『まさか、それを止める為に明日二郎が自分の思考を操作したのか?』
『何の準備もせずに邪神の真名を
宮森さんの様な豊富な霊力の持ち主は特に危ない』
『そう云う訳だったのか。
自分が真名を
『どう致しまして。
明日二郎にはさっき、宮森さんの思考に緊急停止装置を組み込んで貰った。
これで不用意に邪神の真名を
『何やらおかしな事をされてしまったらしいが、
『ふふ。
宮森さんが自身の霊力操作に慣れたら、緊急停止装置は外す事が可能だ。
安心してくれていい』
『まったく、ヤレヤレだぜ……』
『おい明日二郎。
今自分の事馬鹿にしただろ』
『だから宮森さん。
比星一族の
それまでは我慢して欲しい』
『研究者である自分には口惜しいが仕方ない。
命あっての
ところで質問なんだが、霊力操作をこなすとか言っていたけど、修行的な感じの事とか……』
『するぞ』
『え? 今なんて言ったの明日二郎?』
『精神感応に聞こえないフリは通用せんぞミヤモリ。
修行はヤル』
『今日一郎、それホントか?
ホントに修行するの?』
『正確には修行ではなく修業だけどね。
力の使い方を覚える訳だから。
で、修業せずにどうやって霊力操作を学ぶと云うんだい?』
『ほら、コツが書いてある書物とか秘伝の巻物みたいなのがあって、自分は研究者だし座学の方が効率的かな~と。
まあ、座禅くらいは大丈夫だけど、
『するよ』
『するぞ』
『ひっ! 火渡りとか……』
『するよ』
『するぞ』
『ご、
『するよ』
『するぞ』
『いやソレ死んじゃうから』
昨日の
[註*
◇
邪霊とは その三 了
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