疑念

「原田、また来たのかよ。また差し入れか?」

 部室を訪ねると、今日も西江が出てきた。部室の門番でもしてるのか、こいつ。

「差し入れだよ。今日は直接渡させてもらうからな。」

 僕は強引に部室を覗くと、中にいた夕子を見つけた。

「あ、郁斗くん。どうしたの?」

 僕は夕子を連れて、廊下まで出た。


「この間はごめん。今日こそは、ちゃんと渡させて。飲み物なんだけど。」

「ありがとう。何だろう?」

 夕子は中身を確かめようと、水筒の蓋をあけ、匂いを嗅いだ。瞬間、夕子の表情が凍る。

「これ、もしかしてグレープフルーツ?」

「そうだけど。嫌いだった?」

「・・・私、柑橘のアレルギーがあるの。飲んだら発作が起きちゃうから、これは飲めない。・・・ごめんなさい。」


 また外れた、『X』の言葉が。しかも今回は、もし夕子が気づかずに飲んでいたら、大変なことになっていた。


 最近の『X』はおかしい。やることが裏目に出るようになっている。ネタがなくなって出鱈目を言っているのか?だとしても夕子の嫌がる、それもアレルギーのあるものを提案するなんて。僕と夕子を近づけるために助言をくれているものだと思っていたが、そうじゃないのか?


 そもそも『X』は何者なんだ?

 当初の疑問が甦る。僕と夕子を近づけて、何のメリットがあるんだ?しかも最近は、夕子を苦しめていて・・・。いや待て、夕子を苦しめる?


 はっとして、僕は部室の方を見た。

 すると、部室のドアのあたりからこちらを見ていた西江と、目が合った。西江はすぐに目を逸らす。


 まさか・・・。僕の中で、一つの仮説が浮上した。


 『X』は、西江だ。西江は、最近僕たちが近づいていることを知っていた。

 仲良くさせるために助言を送っていると見せかけて、次第に嫌がらせをするように仕組んでいたのだ。部活であったトラブルや、勉強に追いつけていない話なども、部員だから知っていたに違いない。西江の奴、そんな汚い手を使ってまで勝ちたいのか?

 『X』の言うことにはもう従わないとして、どうにかして『X』が西江だと突き止め、一泡吹かせてやる方法はないか。


 そんなことを考えていると、数日後、『X』からメッセージが届いた。


『明日は大会直前の練習です。放課後、夕子さんのみが個人練習で遅くまで残ります。18時ごろに部室から連れ出し、屋上で励ましてあげてください。』


 これは、ヒントだ。僕の頭は冴えていた。

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