6-14

「タカ兄、コンロ持ってきたぜ。どこ置くといい?」

「あー、このあたりでいいんじゃないか」

「うっし。んじゃここで」

 翔太が倉庫から持ってきたのは、バーベキュー用のコンロだ。

 使うのは久しぶりらしいが、大丈夫だろう。

「あとはテーブルと椅子か」

「さすがにテーブルは一人じゃ無理だよ。タカ兄、頼むわ」

「わかってる」

 十人以上が集まって食事をするには、いくつかテーブルを運んでこないといけない。

 翔太以外の男子は小学生なので、運ぶなら俺が行くべきだろう。

「ってことだから、カレーの調理は任せるぞ」

「はい、お任せください」

「……頼むぞ、悠里」

 無駄に快活な返事をするアンジェではなく、その隣にいる悠里に頼む。

「頼むって、不安要素があるの?」

「……ドジるなよ、アンジェ」

「大丈夫です。信じてください」

 そのガッツポーズが不安にさせるのだが……。

 俺の表情とアンジェの気合を見て、悠里もなんとなく察したようだ。

「まぁ、大丈夫でしょ」

「だといいけどな」

 一抹の不安を残したまま、翔太とテーブルを取りに向かう。

 どうせ集まるのなら、それらしいことをしようと悠里から持ち掛けられた。

 スマホでのやり取りをした結果、外でキャンプっぽい感じでやることになったのだ。

 バーベキュー用の道具があることは知っていたし、使ったこともあるのでその点は問題ない。

 それは咲江さんの両親が残してくれた物。

 こうしてまた使える日が来て、良かったと思う。

 そして子供たちに意見を募り、バーベキューと共にカレーを作ることになった。

 周辺住民への根回しは咲江さんがしてくれているので、遠慮する必要もない。

 日々の積み重ねがあるからこそ、周囲の理解も得られたのだと思う。

「こら男子ども、遊んでないで手伝えよー。じゃないと、ジャガイモと肉抜きのカレーにするからなー」

 ジャージにエプロンという、ある意味では一番キャンプに相応しい格好をした悠里は、手際よく調理をしながら子供たちの面倒を見ていた。

 俺がいた頃もあんな風に下の子を窘めていたが、より磨きがかかったように見える。

「悠里さん、ジャガイモの大きさ、これくらいでいいですか?」

「あ、うん……その半分くらいにしちゃってもいいかな、うん」

「お任せください」

 一緒に調理を始めてまだそう時間は経っていないが、悠里もアンジェのポンコツ具合に気づいただろう。

 あれでもだいぶマシになったと言ったら、信じるだろうか。

 いや、そんな話を振ったらどうして知っているのかとか、面倒な話になるな。

「運び終わったならそっち、準備してよ。バーベキューなら串に刺してなんぼでしょ」

「だな。こっちは男子でやっとく」

「肉だけの串とか作らせないでよ?」

「さすがによくわかってるな」

 容易に想像ができて苦笑してしまう。

 悠里が指摘する通り、男子に好きなように串を作らせたら、肉だけのものが並ぶに決まっている。

 野菜もきっちり食べさせるのが、年長者の務めか。

「よーし、集まれ男子」

 アンジェという不安要素はあるが、カレーは悠里たち女子グループに任せておけば大丈夫だろう。

 こっちのバーベキューは責任をもって、俺が監督するしかない。

「いいか、俺が見本を見せるから、同じようにやるんだぞ。っておい、生で食おうとするな……そっちは串で遊ぶな! 怪我するぞ」

 前途が多難すぎるな、これは。

 塞ぎ込んでいるよりはいいが、アグレッシブすぎるのも困りものだ。

「ほらほら、ちゃんとタカ兄の見とけよー」

 翔太がそう言ってサポートしてくれるのは、素直にありがたい。

 一応経験者でもあるので、即戦力としてカウントもできる。

「みんな楽しそうね」

「元気が良すぎるのが問題ですけど」

「連休なのにそれらしいことができなかったから、大目に見てあげて」

「怪我さえしなきゃいいですよ」

 スマホを手にしている咲江さんに肩を竦めてみせる。

 どうやら、今の様子を動画として撮影しているようだ。

「あ、先生。あたしも撮りたい」

「私も悠里さんと同じく!」

 なにかにつけて撮影したがるのは、アンジェも同じか。

 悠里はなんとなくイメージができたが。

「えぇ、交代で撮りましょう」

 そう言うと咲江さんは、満遍なく子供たちが調理する様子を撮影していく。

 撮影されるとわかって、男子は張り切る。

 競うようなものではないが、そこは男子なので仕方がない。

「翔太はいいのか? 撮影しとかなくて」

「先生とユウ姉が撮ってるしなー。あと俺のやつ、しょぼいから。早く新しいのにしたい」

「お前も進学したらバイトするのか?」

「当然。じゃないと今のやつ使い続けることになるし」

 学生としては真っ当な動機だ。

 いくらかの小遣いは施設から支給されるが、最新のスマホを買えるほどではない。

 欲しければ、自分で稼ぐしかないのだ。

 俺が買い与えることもできるが、それは違う気がする。

 特別な日にプレゼントを贈ることはあっても、限度はある。

 節度と言ってもいい。

 なにより、翔太自身が誰かに買い与えてもらうことを望んではいない。

「ま、頑張れよ」

 だから俺は頬が緩むのを感じながら、そう言った。

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