1-8
「殺風景な部屋ですね」
「悪気はないようだから聞き流すけど、一回だけだからな」
一応の意思表示として言ってはみたが、そういう感想を抱くのも仕方がないと思う。
たった一つの部屋にあるのは、テーブルと座椅子、それにクッションとベッドが一つずつ。服の類はすべてクローゼットの中にある。
あとは冷蔵庫とレンジ、炊飯器や最低限の調理器具などがあるだけだ。
テレビもなければパソコンもない。
殺風景という言葉は妥当だし、それ以外に言いようがないのもわかる。
が、初対面の人間にそう言われて素直に頷けるかどうかは別問題だ。
「とりあえずそこ座っていいから。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
座布団代わりのクッションを彼女に渡し、リクエストを訊く。
「あ、それでしたら紅茶を」
まぁ、女神を名乗るならそっちのほうがしっくり来るな。
とは言え、うちにあるのは大したものじゃないが。
「お湯が沸くまで暇だし、ランプの話、詳しく聞かせてもらえるか?」
キッチンに寄りかかるようにして、彼女の方へ身体を向ける。
彼女はクッションの上に正座をして、まだ珍しそうに部屋を見回していた。
「わかりにくかったでしょうか?」
「単純な気もするけど、いきなり願いを、とか言われてもな。方向性とか、願いのたとえとか教えてもらえると助かる……かも」
「わかりました。では、もう少し具体的にお話ししますね」
小さく頷いた彼女は、テーブルの中心にランプを置き、それを眺めながら話し始める。
「先ほども少し触れましたが、他人に害を及ぼすような願いは叶えられません。たとえその結果が、あなたに幸福をもたらすとしても、です」
反応を伺うように見てくる彼女に頷き、先を促す。
「言い換えると、他人に害を及ぼさなければ叶えられる願いに制限はほぼなくなります」
「ほぼってことは、例外があるってことか」
「はい。基本的にはどんな願いであれ、あなたの幸福に繋がるのであれば叶えることができます。ですが、三つだけという願いを増やすといった願いなどは無効です」
「あぁ、よくあるパターンだな。さすがにそこまで都合は良くないよな」
「それを認めてしまうと、世界の幸福バランスが崩れてしまいますから」
彼女はそう言うと、一瞬だけ目を伏せた。
と思ったが、すぐに顔を上げて微笑んで見せる。
「他にも無効となる願いはいくつかあるのですが……すみません。今は伏せさせていただきます」
「別に構わないよ。ダメならダメって判定されるんだろ?」
「……えぇ。万が一あなたの願いがルールに抵触するものであった場合には、またお話しさせていただきます」
適当に相槌を打ちながら、電気ケトルに目を向ける。丁度お湯が沸いたようだ。
ケトルを手に取り、カップにお湯を注ぐ。
まさか、社長が用意してくれた来客用のカップを使う日が来るとは、思ってもみなかった。
紅茶の香りが、湯気と共に部屋を流れる。
「ほら」
「ありがとうございます」
テーブルに二人分のカップを置き、必要かどうかはわからないがミルクとガムシロップも添える。
彼女はそれを一つずつ紅茶に混ぜ、
「――あつぅっ」
すぐに口元を押さえた。
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