テラ・スエロの冒険、没プロローグ(没を含めた雑多)

 日課のとうぞくいじめ……もとい、盗賊退治を終えた昼。

 うすぐらどうくつの中で、むさ苦しい男たちまたいで歩いていた時だ。

 戦利品がたくわえられている部屋に、なんだか見慣れぬものが置いてあった。

 

「た、助けて……」

 

 せいだいな腹の音とこんがんの声。しょうすいした女の子らしからぬ状態。

 今日の盗賊はひどやつらだったようだ。人身売買にも手を出していたとは。

 おれはさっさとおりかぎを開け、続いて宝箱のかいじょうを試みる。

 

 がんじょうくさりを使っていようが、鍵の構造がおまつならば話は早い。

 あっという間に開き、中には宝石や金貨の山。当分は食うのに困らないな。

 ここで全部持っていくのは欲張り鹿だ。ばやく値打ち品だけを持てるはんふくろに入れる。

 

 ふところが暖かくなった俺は、ようようと一歩した、が。

 

「待って……おなかいて動けない」

 

 色気のない言葉である。

 見た感じはとしごろの女の子だと思うが、まとっている布地がぼろぼろでよくわからない。

 白いダンゴムシのような女の子が、檻の中でもぞもぞ動いている。

 

「これから近くの街でかんきん予定だけど」

「大きな街は……できればけたい」

 

 どうやら訳ありのようだ。

 とりあえず布地を少しだけまくげる。

 あでやかな緑色のかみを三つ編みにして背中へ流した少女。体格的に十五さいくらいか。

 顔を上げたので観察してみる。一言で美少女。花のようなももいろひとみは、通りすがりの男女がれるだろう。

 なるほど。盗賊達がらえていた理由もわかる気がした。

 

「じゃあ村の食事どころは? 近くにい定食屋があるけど」

「そこでお願いしたい。名乗ることはできないけど……礼は必ず」

「よっしゃ。今の言葉を忘れんなよ」

 

 俺がきらいなのは「骨折り損のくたびれもうけ」だ。

 よく見れば服はよごれているが、中々の上等なもの。

 どこかの貴族や領主のむすめが家出して、盗賊におそわれたか。

 

 念のため手配書の束で、かのじょに似ている人相はないかを調べる。

 残念ながらけんしょうきんはかけられていないらしい。まあ食事処で新しい手配書でも見ておくか。

 ぐったりした少女の手を取り、ゆっくりと背負う。うん、重い。

 

 相当腹が減っているのだろう。手足に力が入っていない。

 まあ育て親のおかげで力仕事は得意だし、鼻歌しながら歩き始める。

 やはり昼間に盗賊は退治しておくものだな。日差しが気持ちいい。

 

「あ、俺の名前はテラな」

「わ、私は……」

「名乗れないんだろ? 今はそれでいいよ」

 

 手配書に名前が書かれている可能性も高いしな。

 臨時収入に追加料金みも手に入り、俺は明るい気分だった。

 

 これが俺――テラ・スエロがまれる、へんてこな冒険ペリペティアの始まりである。

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