遠い不安より目先のことを(スチーム×マギカ)

「いずれほうすたれるでしょう」

 

 魔導士とは思えない発言をしたユーナは、目の前でおどろくコージに構わず続ける。

 

りょくは目に見えないもの。それを感じて、動かす……これはくつで説明できないことが多いのです」

「そう……なのか?」

「絵がい人が下手な人に説明しても伝わらない、に似てますわね」

「才覚の問題は……まあ、確かにそうだが……」

 

 まどいながらあいづちを打つコージは、クッキーを食べる手を止めた。

 代わりにのどうるおそうと紅茶を口にふくむ。茶葉の苦味が豊かなかおりといっしょに口内へながむ。

 

「わたくしでさえ、時折困ることがありますわ」

 

 それは説明が長いあくへきのせいでは――とコージは口に出さない。

 むしろ理解できないことが多いが、ユーナの説明は貴重なものだ。

 世界で七人しかいない最高位魔導士の説明だ。大学でめっに受けられない講義のような価値が宿る。

 ただ相手に理解させようというづかいは、少し欠けているのが問題だが。

 

「それに科学の発展、れんきんじゅつからの化学、薬学……あらゆるものが足をそろえて先に進むのです」

「魔法はちがうのか?」

「完成されてしまっているのです。るがないくらいに」

 

 未完成だからこその可能性。

 それを黄金律のじょが、つぶしたようなものだ。

 白、赤、青、緑、黄――この五つによって、魔法の体系は完成したとも言われている。

 それを打ち破ろうとして、数え切れぬものがちょうせんし……敗れていった。

 

「ユルザック王国でのせいれいしんこうも日々おとろえていると風のうわさがありますし」

「私としては精霊というものがピンとこないが……」

「そういう人が多かったため、何度かおばあ様が留学してますわ。わたくしも一度……」

 

 遠い思い出がひとみとうえいし、なつかしい金色をちらつかせる。

 その色を宿した王子も、今や過去の人間だ。

 およんだはんでは兄弟であった王子にしょけいされたとも。

 真実を確かめようにも、その国は遠くへいてきだ。簡単に旅行にも行けない。

 

「ユーナくん?」

 

 呼ばれて、意識を現在にもどす。

 としを取ると感傷的になってしまうのは、どうにも止められない。

 失ったものが多く、それ以上に得た。

 それでも少しだけさびしさを覚えるのは、仕方のないことだ。

 

「ごめんなさい。ぼーっとしてましたわ。話を変えましょうか」

「そうだな。では早速だが……」

 

 そして新しい事件が始まるのであった。

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