チューさん(ミカミカミ)

 城内でまことひそやかにささやかれるうわさ

 西のとうゆうれいが出るらしい。それは生者に危害を加えるのだと。

 首筋にいて、血を吸い上げるおそろしい存在なのだとか。

 

「ああ、チューさんのこと?」

 

 クリスが真相を確かめようとヤーをさそっていた矢先だ。

 ミカがあっけらかんとした様子で話に入ってくる。

 青い顔をしていたヤーは救いの手だと言わんばかりに、かれへとく。

 

「どういうことよ!?」

おれくわしくないけど、チューさんは人間じゃないだけだよ」

 

 子犬のメザマシ二世の世話をしていたオウガも、何事かと反応する。

 様々な疑問はかんだが、ヤーは一番先にかくにんしたいことをたずねる。

 

「物理こうげきは効くの?」

「うん。心臓にくいとか打たれると死んじゃうって笑ってた」

「幽霊ではないのですか?」

「らしいよ」

 

 神秘的存在からかけはなれたとわかり、クリスは明らかにらくたんする。

 代わりにこうしんうずいたヤーが乗り気になり、オウガもいぬかかえて近寄ってきた。

 

「アトミスやホアルゥは会ってないの?」

(というか……)

(話しかけられたでしゅね……)

 

 宙に浮かぶようせいひきは気まずそうな顔をしており、どうにも苦手意識を持っていそうだった。

 

る才能があるっていうより、ぼくらよりって感じだね)

(でも妖精とかじゃなさそうでしゅ。もっとこう……うすぐらそうでしゅね)

 

 妖精ではないが、不可思議な存在をとらえられるもの。

 城の中に住むなぞの生物。話がややこしい方向へ進もうとしている。

 

「チューさんは三代目国王の友達みたいでね、特別たいざい許可をもらってるんだって」

「それ、何百年前の話よ……」

「でも周知されると困るから、かくんでるんだって」

「というか、なんでお前は知ってんだよ?」

「ああ、母上がね……」

 

 そこから語られるじょけつの話はすさまじかった。

 幼児を抱えた母が、西とうまわり、かくとびらからの地下通路たんさく

 おくさいだんにはかんおけたてまつられ、ふたを開けばしんな男がていたと発覚。

 どこのだれだと白状させた後、ごういんに約束を取り付けて放置したという。

 

「――ということで、チューさんは俺の味方に入るのかな?」

「どういうわけかよくわからなかったけど、幽霊じゃないならばいいわ」

「いいのかよ……」

 

 少女のきょうポイントから外れ、げんそう好き少女の興味からもれた。

 おかげで城のかいぶつチューさんは、今日もこっそり城で暮らすのであった。

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