通常運転(スチーム×マギカ)

「足がすべりましたわ!」

「なんのぉっ!」

 

 少女からされた剛速のりをかいし、アルトはかがんだ姿勢のままきょを取る。

 いつものようにからかったが、本日は少女のげんが悪かったらしい。

 へらへらとけいはくみをかべるものの、どうはとんでもないごうおんを鳴らしている。

 

「このばん猿がぁ……」

 

 きりめるロンダニアの街。

 呼吸すら冷たさを覚えるような場所で、少女が言葉混じりにした息は熱かった。

 温度差で白くなったいきは、すぐには霧にけなかった。

 

「まあまあ、姫さん……今日はこれかららいを受けにいくんだろ? 落ち着こうぜ。ビークールにだな……」

貴方あなたを一発なぐってからでもおそくありませんわ」

 

 早めに出発したのがちがいだった。

 そんなほうな考えに捉われながらも、アルトは打開策を頭に並べていく。

 一番手っ取り早いのはかのじょちゅうちょするような美形を用意することだ。

 身近な例だとれいふたの弟――チドリだ。

 しかしそれはアルトがおもしろくなかった。

 

 ならもっと逆上させ、警察に止めてもらうか。

 だが約束の時間は待ってくれない。今日の依頼はほうしゅうが破格なのだ。

 しつのヤシロからは「依頼を受けなかったら家に入れない」とまで言われている。

 

 次に考えついたのはなおあやまることだが、それができたら苦労はいらない。

 なにより真面目に受け取ってもらえない可能性が高い。

 いよいよ八方ふさがりになってきたアルトの前で、少女が準備運動かのように手を鳴らしている。

 

「今日こそねんの納め時ではなくて?」

「いや、姫さん……それはちがう」

 

 真面目な表情とこわだんとは違うしんけんさ。

 それらをにじませたアルトを前に、少女がまどいを見せた。

 そのすきねらい、かくしんつく一言をらわせる。

 

「腹減ってんだろ? ぶくろに食べ物を納め時なんじゃね」

 

 しくじった。つい、普段のあくへきがにっこり顔で出てしまった。

 少女のいかりのボルテージが爆上がりし、周囲の霧がまどうように動く。

 細身の体から放たれる熱気はげんかくではなく、これから起きることのまえれだ。

 

「ゆらゆらとゆらり――」

 

 こしに固定していたつえ刀の留め具を外し、手ににぎる少女。

 そしていしだたみかいして現れたきょりゅうが「あーまたかー」とあきれたような目で見下ろしてくる。

 アルトはすでとうそうを始めており、周囲のけんそうをかき分けて進む。

 

 そして今日もにぎやかではためいわくそうどうが始まる。

 こくした二人を、らいしゃは苦笑いでながめるのだった。

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