音を楽しむ(誠の友情は真実の愛より難しい)

 電子しょせきの革新さにおどろいていたことだが、世の中にはそれ以上というものがあった。

 音楽配信サービス。たんまつ一つ、月額固定によるき放題。

 昔なつかしのほうがくから、最新のアニソン、はるか遠くの洋楽まで。

 

 あらゆるジャンルをくし、むような音のこうずい

 音楽を楽しむ習慣がなかった真琴にとって、そんなサービスがあることにきょうてんどうここだ。

 特におもしろかったのがインディーズによるランキングこくじょうだ。

 

 テレビで流れる順位をあざ笑うように、無名の新人ががる様子。

 それを自らのひとみもくげきできる快感は、多くの者をとりこにしていく。

 赤い瞳をかがやかせて、真琴は動画配信サービスのミュージックビデオを楽しむ。

 

 かくされた生活空間をものともせず、ネット上には国境も区別もなかった。

 それが全て善ではないが、だんきゅうくつさから解放されるさっかくを味わう。

 自由に移動できない世界が適応したのか、サービスが進化したのか――それとも両方か。

 

「面白いなぁ」

 

 観測している側は難しいことを考えず、じゅんすいに楽しむだけ。

 一曲の中にどれだけの人生の時間がまれているのだろうか。

 四分弱の音楽は、いかなる年月によって構成されたのか。

 

 アニメーションがカラフルに動く様は、本当に同じ人間がえがいたのかわからない。

 こんなにも自由に流れると、宇宙人が作ったと言われても信じてしまいそうだ。

 力強い歌声もそうだ。のどの仕組みからちがうのではないかと疑う。

 

あるじ殿どの、次はこちらなどいかがでござるか?」

「これもオススメだ」

 

 覗見としゃおんが次々とすすめてくるので、尽きることがない。

 時には自分好みな一曲を見つけると、まるで運命に出会ったかのように胸が高鳴る。

 鼻歌でかなでれば、同じ曲が好きな広谷や裕也が反応し、感想を言い合ったりするのも楽しい。

 

 ただランキング一位の曲に心動かされない時もある。

 そんな日は少しゆううつになる。自分は他者から外れてしまったような気分。

 けれど音楽は海のように広がり、かつての一位もいずれランキング外へ流れていくのだ。

 

「ふんふふーん」

 

 る前にメロディをくちずさみ、一日の終わりを音でいろどる。

 それだけで幸せを感じられるのだから、音楽には不思議な力が宿っているかもしれない。

 それを実感しながら、真琴は音楽を楽しむことを覚え始めたのである。

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