ごちゃまぜ！

週末カレー（スチーム×マギカ）

　アイリッシュ連合王国の週末はカレー。

　そう言われるほど、ロンダニアではカレーが愛されている。

　肉をごろごろと入れて、カレー粉を投入してからじっくり煮（に）込（こ）む。

　カレーの香（かお）りがすれば「もう週末か」と、呟（つぶや）く者もいるくらいだ。

　そしてスタッズストリート１０８番の借家でも、カレーが振（ふ）る舞（ま）われていた。

　パンにナン、米まで用意した本格的なご馳（ち）走（そう）の日。

「わたくしはお米で食べますわ」

「俺（おれ）様はナンにしよっと」

　紫（むらさき）色（いろ）の瞳（ひとみ）を輝（かがや）かせた少女が、さらにご飯を盛る。

　飄（ひょう）々（ひょう）とした青年はナンを一気に三枚確保し、カレーもスープ皿に大量に入れる。

「アタシはパスタも捨てがたいのよねん」

「カレーで煮込んだハンバーグも美（う）味（ま）い」

　少しグルメな双（ふた）子（ご）は毎回違（ちが）う方法を試（ため）し、今日は弟のチドリがカレーの表面を軽く焼いていた。

　部屋中に広がる香（こう）ばしい匂（にお）いに、配（はい）膳（ぜん）をしていたメイドの足が止まる。

「僕（ぼく）も早く食べたいですぅ……」

「仕事優先」

「あわわ、はいぃ！」

　背後から近寄った執（しつ）事（じ）の小声で驚（おどろ）き、持っていた皿を天（てん）井（じょう）近くに投げてしまう。

　ドジっ娘（こ）メイドのナギサは、空を舞（ま）う皿に顔を青ざめさせた。

　しかし有能な犬耳執事のヤシロは、魔（ま）法（ほう）を使って皿を見事に回収する。

「お二人も一（いっ）緒（しょ）に食（しょく）卓（たく）についていいですわよ」

「一応、使用人だからな。ある程度の礼（れい）儀（ぎ）は必要だろう」

　しゅーん、と落（お）ち込（こ）むメイドのフォローも行いながら、執事は冷静に返答する。

　メイドや執事は家主達（たち）と食事を共にしない。配膳などで給（きゅう）仕（じ）を行い、身を尽（つ）くすのだ。

　それが当たり前なのだが、この借家では常識は大体崩（ほう）壊（かい）している。

「でも冷めるのはもったいないですわ」

「そうだな。皆（みな）で食べた方が美（お）味（い）しいぞ」

「あら、コージさんおかえりなさい」

　借家の主であり、ギルドリーダーである青年が帰宅。

　灰色の髪（かみ）にまとわりついた霧（きり）の汚（よご）れを拭（ふ）き取（と）りながら、食卓へ近づいていく。

「お。今日は残業なしか？」

「そんな毎日残業しているような言い方はやめないか？」

「え？　違ったのん！？」

「……反論しづらいな」

　毎度ギルド関係で始末書作成をしているコージは、渋（しぶ）い表情を浮（う）かべた。

　しかし配膳された焼きカレーハンバーグ（粉チーズかけ）を目の前に、疲（つか）れなどあっという間に吹（ふ）っ飛（と）んでしまう。

「まあ、とりあえず食べよう！　ほら、二人も一緒に」

「……家主の命令なら仕方ない」

「あわわ、ありがとうございます！」

　時にはこんな平和な時間も存在する。

　カレーの偉（い）大（だい）さは、そんな日常を象（しょう）徴（ちょう）するものだった。