予約もファンの嗜みだよね(スチーム×マギカ)

 だまっていればわいいとしょうされるロゼッタは、カフェテリアのまどぎわで本を読んでいた。

 ふわふわなぎんぱつに、とろんとした金のひとみ

 服装も牧歌的で、北の山で山羊やぎたわむれているのが似合いそうな姿である。

 

 きりめるロンダニアでは少し異色な容姿だが、生まれ持った愛らしさがかくしてしまう。

 ひとつまみのクッキーと紅茶。それだけで三時間は読書にふけっていられる。

 そんなかのじょに近寄る一人の男がいた。

 

「やあ、ひまなのかい?」

 

 スーツを着こなした若い男はゆうな身のこなしだ。

 自然な動作で向かいの席にすわり、ウェイターに珈琲コーヒーたのむ。

 

「……」

「そんなにけいかいしないで。少しお話がしたいだけさ」

 

 視線だけで不満を表した彼女に、男はゆうゆうとした態度で応える。

 ぱたん、と本を閉じたロゼッタはめんどうそうに声を出す。

 

「ロゼッタは貴方あなたに興味ない」

「可愛い名前だね。呼んでもいいかい?」

 

 はっきりと無関心を示したにも関わらず、男にはひびかなかった。

 小さく息をいたロゼッタは、もう一度本を開いた。

 

「何を読んでるのかな?」

「カロック・アームズの最新刊」

「ああ! それはぼくも好きなシリーズだ! その巻は最後に」

 

 共通の話題ができたことに喜んだ男が、ようようと語ろうとしたしゅんかん

 

「――は?――」

 

 やわらかい外見の少女から発せられたとは思えない、地の底までこおるような冷たい声が出た。

 それだけで男が飲んでいた珈琲はシャーベットになり、寒さにふるえる男は歯の根が合わなくなる。

 がたがたとこごえる男の前から立ち去る寸前、ロゼッタは見下しながら告げる。

 

「ロゼッタ、ネタバレはだいきらい」

 

 自らのかんじょうも男に任せ、彼女はふわりと霧の中にけていった。

 ふらふらと歩いた先はスタッズストリート108番の借家。

 意味もなくにぎやかな家屋に入り、しつむかえも受けながら二階へ。

 

「ユーナちゃん、最新刊読んだ?」

 

 とうとつに居間へ入り、来た理由も述べずに問いかける。

 するとソファの上に力なくていた少女が、がばりと起き上がった。

 

「どこも売り切れなんです! ああ、大失態ですわ……初版本はファンのたしなみなのに!!」

「いや、ちがうと思うぜ姫さん」

 

 変なみ方をしている少女に対し、いつもより弱めのていせいを試みるアルト。

 しかししゃくさわったらしく、つえがたないちげきをくらってしまう。

 それだけで少し満足したロゼッタは、ふんわりとほほんだ。

 

「じゃあロゼッタが読み終えたやつならあげる。二冊買ってるから」

「本当ですか!?」

「うん。布教用はファンの嗜みだもん、なーんてね」

 

 それはそれでどうなのだろうか。

 ゆかの上にたおれたアルトにツッコミを入れる気力はなかった。

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