人生はハードモード(バシリス・クライム)

「そういえば前に話した従姉妹いとこの話っすけど」

 

 なんか聞いたような、覚えがうすいような。

 いやな予感がひしひしとせまる気がしたが、おれ――さいサイタは続きを待つ。

 

「一げつ休職したっす」

 

 さやえんどうの筋取りをしてる大和やまとヤマトは、表情が読み取りづらい。

 ちらし寿の準備中に聞く内容か、それ。

 まあ、とにかく大変だったな、という感想しかかばん。

 

「毎日泣いて、職場で過呼吸を起こし、胸の痛みを感じてのしんりょうないじゅしんだったらしいっす」

 

 ……それはやばいな。うん。

 毎日泣くって時点でアウトだろ。どんだけつらかったんだよ。

 しかも体の方に不調が出て、お医者さんの世話になるって相当だな。

 けれど深刻な事態におちいる前でよかったな。取り返しのつかないことになるよりはマシだ。

 

「そしたらおどろくほどに明るくなって……昔のほがらかな性格がもどってきたっす」

 

 イクラときんらんはできたし、きゅうりもかんぺき。カニカマも入れて少しごうにするか。

 なにせ大喰らいが二人いるしな。少食が一人存在しても総合的に見てプラスの方がデカい。

 それにしても何故なぜ、その従姉妹の話が出てきたのか。世間話にしても重くないか。

 

「従姉妹はさやえんどうの筋取り名人で、さやちゃんなんて呼ばれてたっす」

 

 ここでそうつなげるのか。

 まあ本名に一文字もかすってなさそうなあだ名だけど。

 筋を取り終えた大和ヤマトが、よくわからんがおだやかなみを浮かべている。

 

「さやちゃんが元気出て俺はうれししいっす」

「……そっか」

 

 どうやら大和ヤマトなりに従姉妹を心配してたらしい。

 まあ心をんでしまうと、最悪な場合を想像してしまう。

 もしもその手段を選んでしまったら、周囲がこうかいさいなまれてしまうだろう。

 

「でもそろそろ正社員になりたいから、しょく考えてるらしいっすけど……資格持ってないとかで困ってるっす」

「せめてコネとかあればいいけどな。ヤマトの家はそういうの強そうだけど」

ひいじいちゃんが色々やらかしてるんで」

 

 ああ、うわさの。一体なにをやったのだろうか。

 なんにせよコネを辿たどると逆にやばいということだけはわかった。

 

「資格があれば死角がないのにな」

 

 自分で思いついておきながら、めっちゃ寒かった。

 真夏のちゅうぼうでさえ冷えているようだ。大和ヤマトの真顔がつらい。

 

「……ふふっ」

 

 リビングでララが小さく笑ったが、俺はそれに気づかなかった。

 余計なはじをかいたが、その日のちらし寿司はめちゃくちゃかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る