自由とは他者を害するものではない(スチーム×マギカ)

 おどりと音楽が広がり、くらやみの中でも宝石のようにかがやく場所。

 それを遠くからながめ、いつか立つことを夢見ていた。

 きょだいが垂直に落ち、大切な人の首をり飛ばした時――あこがれは泡沫へと変わった。

 

 民衆が自由を勝ち取った時代は、真っ暗なやみの始まりだった。

 その勝利には常に死のかげがつきまとい、他の国の産業革命から取り残された。

 しかし自らがつかったとかんする民衆たちを責めることはできず、あの夜のように遠くから眺めるだけだった。

 

 かくから空を見上げれば、ゆうだいな鳥が飛んでいく。

 青い空をくようにぐと、静かに遠ざかっていく姿がうらやましかった。

 走って追いかけることもできず、胸のおくからがってくる感情をめる。

 

 なにがちがっていたのか、もうわからなかった。

 けれど友達が命がけで生かしてくれたから、自殺も選べない。

 ふたの弟が必死に守ってくれるから、そのおもいを裏切ることもできない。

 

 へいぼんで、なしで、つうな自分がきらいだった。

 ある時、不思議な感覚におそわれた。とある女の子に出会って、変な事件にまれた。

 なにを考えたのか、かのじょに全てを話してしまった。もうなにか正しいのかわからないと、さけぶようにした。

 

「大衆の正義と心の正義はちがうでしょう?」

 

 氷山にかなづちろすような、さいしょうげき

 しかし確かに表面がくぼみ、けずれた手応えがあった。

 

だれかの正しさなんて、自分の基準にみたくありませんわ」

 

 削れた場所から、したたちるように。

 なみだほおを伝っていく。それはしびれるくらいに熱かった。

 

「ただ一つ言えるのは」

 

 それは。

 

「命が消えることを喜んではいけません」

 

 正しいとか、間違いではなく。

 ずっと耳にこびりついていたかんせいを否定し、自由の勝利に異を唱える言葉。

 まるでほうじゅもんのように、求めてやまないものだった。

 

 歴史の観点で、大切な人は悪人としてののしられるだろう。

 その死をくつがえすことはできず、時代のために必要だったと語られるかもしれない。

 けれど確かに悲しかった。つらかった。苦しかった。

 

「だからわたくしは正義なんて嫌いですわ」

 

 うなずきたかったのに、えつや涙が重くて顔を上げられなかった。

 勝者であることは構わない。自由を掴み取ったと喜ぶのはいい。

 しかし「家族」が死んだことに歓喜したのだけは、どうしても許せなかったから――。

 

「アタシも……正義なんてだいきらいだわん」

 

 ようやく言えた。

 あいない、とても小さな勇気。

 この答えを見つけるのにどれだけの時間がったのだろうか。

 

 アタシ――ハトリが本当の意味で自由になった時だった。

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