ごちゃまぜ！

伝説だって世知辛い（ミカミカミ）

　ウラノスの民（たみ）。天空都市の住人。ミカミカミを求め、破（は）滅（めつ）した者達（たち）。

　彼（かれ）らは時に世界の均（きん）衡（こう）を担（にな）ったというが、多少資料が不足している。

　他に二つ。地（ち）底（てい）回（かい）廊（ろう）と深（しん）海（かい）城（じょう）塞（さい）に住む者達がいる。

「――という本を見つけたわ」

　濃（こ）いクマを目元にくっきり残したヤーが、興奮した様子で部屋の天（てん）井（じょう）を見上げている。

　海月（くらげ）のように宙を漂（ただよ）う美しい妖（よう）精（せい）、アトミスが生（なま）欠（あ）伸（くび）を堪（た）えて答える。

（ウラノスの民達との交流はあまりなかったけど）

「それでもよ！　つまりミカみたいに転化術使える奴（やつ）らが他にいるんでしょう！？」

　まるで憧（あこが）れのおもちゃを目の前にした子供のように、少女は机の上に置いた本を指差す。

　その周囲を囲むようにミカ、オウガ、クリス、そして花灯（あか）りの灯（とう）篭（ろう）からホアルゥが本を眺（なが）めていた。

　著者は初代顧（こ）問（もん）精（せい）霊（れい）術（じゅつ）師（し）ユリア・フェイト。題名は『いまだ見ぬ隣（りん）人（じん）達』というものだった。

（僕（ぼく）もあまり詳（くわ）しくないよ）

「でも、少しは聞いているでしょ！？」

　一歩も引かないヤーに対し、アトミスは面（めん）倒（どう）くさそうに顔を曇（くも）らす。

　さらりと揺（ゆ）れる長い三つ編みさえも、今はどことなく萎（しな）びているように見受けられた。

（……って）

「なに！？」

　小声で誤（ご）魔（ま）化（か）そうとしたアトミスだったが、好（こう）奇（き）心（しん）と地（じ）獄（ごく）耳（みみ）には勝てなかった。

　美（び）麗（れい）な顔は不（ふ）機（き）嫌（げん）でも崩（くず）れず、溜（た）め息（いき）を吐（は）く姿すら絵画のようだった。

（仲悪いんだって。犬（けん）猿（えん）以上。三（さん）竦（すく）み構造）

　あっさりと出てきた事実は、少女のきらきらとした夢を壊（こわ）すには充（じゅう）分（ぶん）だった。

　地底回廊に潜（ひそ）むアイナの民とは、星の調整を行う整備士の末（まつ）裔（えい）。

　深海城塞に篭（こ）もるオセアンの民は、世界の脈を守る守備兵士の子孫。

　天空都市から地上を見下ろし、精霊の統（とう）括（かつ）を行っていた管理者がウラノスの民。

　星の調整のために無断で脈をいじり回し、場合によって精霊の流れを変えてしまう整備士。

　脈を守る故（ゆえ）に精霊を大量に消費し、場合によって星の設備を破（は）壊（かい）する守備兵士。

　そして精霊第一ならばと、世界の脈も星の設備も勝手に書（か）き換（か）えてしまう管理者。

　部署違（ちが）いによる争い。派（は）閥（ばつ）闘（とう）争（そう）。その他諸（もろ）々（もろ）で表現できるが――。

　結果として「なるべくお互（たが）い不干渉が一番平和」と結論づけたのである。

「つまり未知の精霊術があるってことね！」

（……そういう前向きなのは嫌（きら）いじゃないよ）

　しっかりと思考を切（き）り替（か）えた少女に対し、美しい妖精は半ば呆（あき）れた。

　しかしアトミスが浮（う）かべた表情は微（ほほ）笑（え）みであり、さらなる詳しい事情は打ち明けないでおこうという意志が強く感じ取れる。

　魂（たましい）が視（み）えるミカは、妖精の気（き）遣（づか）いをさりげなく察知。そっとしておこうと見守ることに決めた。