第二章 第九話 野草商店のトリッタ、料理対決の2千Gの予算で奮闘する……!?

 何故か分からないが、私の周りで異変が起き始めているようだ。

 今思い起こせば、あの残されたメモは明らかに変だった。

 野草パン対決の時はなぁなぁになってしまったあのメモは、また今回の事件でも料理に添えられてあった。

 おかしなことに、そのメモは黒幕からではなく、エッセルバートの筆跡だった。

 しかし、そのメモは黒幕に途中から内容を改変されていた。

 そのため、またしても料理対決の事件に巻き込まれてしまった。

 今度は、2千Gで魚料理対決だが、その肝心の高級魚の『オイシイうお』が釣れない。


 朝食を摂った後、エッセルバートと私はどんよりと重い空気になっていた。

 異世界の冷蔵庫である『マジカル一号庫』を開けると、昨日エッセルバートたちが頑張った戦利品の魚がこれ見よがしに入っていた。

 戦利品といっても『マズイうお×10』だが……。

 私は、『マジカル一号庫』から野草で作った『野草ジュース』を取り出す。

 昨日、野草を取りに行ったけど、結局『トリュフ草』が採れなかったし、『マズイうお』ばかりだったので、料理対決は休戦になった。

 それで、結局昨日採れた野草で『野草ジュース』を作った。

 しかも、私の特別な配合による『野草ジュース』だ。

 しかし、『マジカル一号庫』の中に入っている『マズイうお×10』が私に何かを訴えてくるようだ。

 私は、無情にも『マジカル一号庫』のドアを閉めた。


「……やっぱり、『オイシイうお』って釣れないの?」


 エッセルバートを振り返ると、やはりどんよりとした空気を頭の上に乗せてうなだれていた。


「侍従たち全員に日が暮れるまで釣らせたけど、釣れるのは全部『マズイうお』ばかりだったんだ?」

「うそぉ……!」


 確率は低いけど、絶対に一匹は釣れるはずだと前に誰かが言っていた。

 それなのに、一匹も釣れないだなんて――。


「それで、昨日は湖で何回も漁をしてみたんだけど、全部『マズイうお』ばかりだったよ?」


 今の私では、生態系に異変でも起きているのだろうか、としか思えなかった。

 しかし、『マズイうお』しか釣れないとなると、料理対決の2千Gでは高級魚は買えない。


「やっぱり、『マズイうお』で料理しないといけないってこと……?」

「じゃあ、トリッタに訊くけど、『マズイうお』を高級魚にできる野草ってあると思う?」

「うん、あるよ……! 『マズイうお』にレアレベルのハーブが効かないとなると、の類位じゃないとダメかもね……!」


 もしかしたら、超レアなウルトラハーブ探しは『オイシイうお』並みに難しいかもしれない。


「超絶レアじゃないとダメなのか!? あー、『トリュフ草』があれば、今度の料理対決は断れるんだけどなぁ!」

「ちょっと待って……? オオセツカが、裏技を使っていたじゃない……!」

「ああ、自分の店の契約農家が作っているとかなんとか?」

「そう……! 侍従か誰かに、高級魚を買わせて、エッセルバート宛に贈らせるといいのよ……!」

「そ、そうか! そうすれば!」

「予算の2千Gも使わなくても良いし、予算内に収まるよ……!」

「トリッタ! 凄いよ、それ!」


 あくどい笑みをお互い確認した私とエッセルバートは、すぐさまそれを実行に移した。

 侍従に高級魚を色々と買わせて、贈らせようとしたのだ。

 突如、賑やかな声が館の中に響き渡った。


「ただいま戻りました!」

「あのっ! 高級魚を一通り買ってきたんですけどっ……!」


 侍従たちが高級魚を買って戻ってきたようだ。


「おかえり……! それで、どんな高級魚を……?」

「これですっ! 締めて200万Gですっ!」

「おおお……!」


 並べられた高級魚は十匹程度なのに、その中にやけに大きな高級魚の『トロトロ』が、デデーンと置かれてある。


「ですがっ、購入している途中でっ、お城から『若覇者からの警告の文』を貰ってしまいましたっ!」

「えっ……!?『若覇者からの警告の文』……!?」


  そっと黄色いメッセージカードを開くと、大きな赤い文字で警告文が書かれてあった。


【不正が発覚したので、魚料理の材料は両者とも『マズイうお』を使わなければならないことにした! 勿論、予算の2千Gは厳守すること! 若覇者】


「そ、そんなァ……! 私の高級魚食べ放題が……!」


 まさかの、『マズイうお』絶対使用命令だった。

 しかし、私とエッセルバートは『若覇者からの警告の文』を受け取ってしまった。

 真正直に『マズイうお』で頑張るしかないのか。


「どうしよう……! エッセルバート……!」


『若覇者からの警告の文』を受け取ったことをエッセルバートに告げると、彼は難しい顔になった。


「『若覇者からの警告の文』を受け取ったんじゃ仕方ないか! やっぱり、『トリュフ草』か、超レアなウルトラハーブを見つけるってことで、問題はトリッタに丸投げだな!」

「う、うん……! ちょっと、『アイマイモ湖周辺の土地』で『トリュフ草』か超レアなウルトラハーブを探しに行ってくる……!」


 私は、仕方なく『プレート』に乗って『アイマイモ湖周辺の土地』に降り立ったのだった。

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